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 ちょっとは落ち込んだけど、不具合なら仕方がない。これからも宇宙船の設計は続けるつもりだ。遥にいいよと言ってもらうまで、本物の宇宙船が完成するまで何度でも挑戦するつもりだ。

 澪はときどき、遥ならどんな宇宙船を設計するのか聞いてみたいと思うことがある。でもなんだかずるいような(ずるをしているような)気がしてどうしても聞くことができない。それを聞いてはだめな気がするのだ。これは『僕の夢』だからだ。

 澪の夢は宇宙に広がっている。澪の心には無限の宇宙に広がっている。澪の目はいつの間にかその星々の輝きに、流れていくたくさんの流星の光に、釘付けになっていた。そこが澪の辿り着きたい場所だった。手を伸ばせば届くような気がするけど、実は全然届かない。いつでも星は地上にいる澪からは、とても、とても遠い場所で輝いていた。


「そろそろ家に帰ろうか?」遥が澪に話しかけるが、珍しく澪から返事がない。

 遥がノートパソコンの画面を確認すると、白いクジラは画面の中でいつの間にか、ぐっすりと眠りについていた。

 そんな澪を見て遥は笑い、そっと澪を起こさないように優しくノートパソコンを抱えると、駅の屋根から隠し階段を使って地面に降りた。

 とても幸せそうな寝顔。起こしてしまうのはかわいそうだ。

 澪の意識は宇宙を漂っている。

 遥が列車に乗り、地下の駅に降りて、真っ暗な道を街灯の明かりに沿って歩き、たまご型の研究所まで戻ってきても、澪はまだ宇宙旅行から遥のいる生まれ故郷の星にまで、帰ってきてはいないようだった。



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