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「この自転車は遥の趣味なの?」夏が澪に質問する。

「さあ、どうだろう? あまり利用はしていないから、趣味って感じはしないかな? 本当にたまにドームを点検するのときに移動用として使用するくらいだよ」

 夏はさらにスピードを出して道の上を滑走する。

「じゃあこの道は作業用のためだけにわざわざ塗装したの?」

「いや、違うよ。この道はあとで線路を引く予定になっている道なんだ」澪は言う。

 夏は緩やかなカーブをした道を走り抜ける。

 二人はそんな会話をしながら、サイクリングを楽しんでいる。


「ねえ夏。自転車のこと夏に教えて、僕、あとで遥に怒られないかな? こんな勝手なことして、見つかったら怒られないかな? 大丈夫かな?」

「大丈夫だよ。それよりもさ、この道どこまで続いてるの?」いつの間にか、自然に夏の腕時計の画面の中に移動した澪は遥に怒られることを心配している。夏はそんなことよりも簡単に夏の腕時計の中に潜り込んだ澪の能力に驚いていた。

 澪の力は夏の思っている以上なのかもしれない。(過小評価をしているつもりはないのだけど……)

 シロクジラは照子同様に外部にその詳細な情報が漏れていない。意図的に遥が隠している。(資金を調達するための餌にしている)照子の情報も、シロクジラも遥が正式にこの旧雨森研究所、現在の木戸研究所の所有者になったあとは、開示情報が意図的に歪められていた。要するにダミー情報が発信されるようになっているのだ。夏も遥の足跡を追っているときはダミーとは気がつかなかったので、(ドームや研究所そのもの、照子や澪など)実物を見てとても驚いたのだ。

 だけど、まあ納得もできる。とてもじゃないが、この研究所での詳細なデータや実験記録は、事実そのままでは外部には発信できないだろう。

 遥の研究は外の世界の技術に比べてかなり進んでいる。それは木戸遥の才能という理由もあるが、それは要因の一つにすぎない。(遥と同じくらい、もしくはそれ以上の才能を持つ人間は少数だけど、世界に存在する)

 その最大の要因となっていることは、おそらく遥が研究のための手段を選んでいないためだ。

 ここでの遥は、魔女狩りにあっても言い訳できない可能性がある。

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