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 夏と澪は小高い丘の上まで移動した。この場所に来るのはちょうど一日ぶりだった。昨日のこの時間も、夏はこの場所に立っていた。二十四日と二十五日。時刻はどちらも夕方。空が青色から赤色に変わる時間。同じ時間。日にちが一日違うだけ。その場所に立って、そこから見える幻想的で(夏にはそう思える)美しい世界の風景を夏は眺める。


 そこには小さな丘がある。その丘の上に夏は立つ。なにもない丘。確かに澪の言った通りだ。……でも、ここから眺めるドームの風景は美しい。(それはなにかがあるということだろうか?)

 夏の視界の中には、木戸遥の創造した、とても美しい風景が広かっている。

 地平線の果てにはうっすらとドームの輪郭が浮かんでいる。

 ドームの形は大地に近い場所ではかろうじて、人の目でとらえることができるが、上に行けば行くほど、空の色と同化して見分けがつかなくなった。それはすぐに空の中に溶け込んで、夏の目には見えなくなってしまう。

 緑色の大地の上に透明な風の吹く場所。世界の果て。誰も知らない辺境の土地。遥以外の人間が、普段は誰もいない場所。……木戸遥の描く理想の世界がここにはある。遥はここに家を建てると言った。遥はきっと、ここに自分のお墓を作るつもりなのだ。空が曇っていることが残念だった。夏はここから広がる無限の青色を見たいと思った。それが見れないことがとても残念だった。……風が、夏の長い髪を揺らした。

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