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 夏は緑色の草原の上を向き風に向かって歩き続ける。

 遠くに小高い丘が見える。遥が家を建てると言っていた場所だ。ドームの中心に位置しているところ。地下にある木戸研究所の真上に当たる場所だ。

 夏は頭の中で空想をしてみた。

 あの丘の上に一軒の小さな家が建っている。そこに木戸遥と木戸照子が住んでいる。シンプルな生活にそんなに大きな家はいらない。白い色をした小さな家。……そこにはもしかしたら澪もいるのかもしれない。木戸澪。夏の想像の中の澪は白いクジラの姿ではなくて、わんぱくな顔をした小さな男の子の姿をしている。

 家の近くには湖と森と、その森の中に隠されるようにして建てられている小さな駅がある。その駅からは線路がどこまでも伸びていて、この小さな世界の、ありとあらゆる場所まで移動することができる。運賃は無料だ。時間と好奇心さえあれば、どこまででも行ける。そんな素晴らしい列車がその駅には停車している。

 この世界には遥たち三人の家族だけしか存在しない。そのためだけの世界だ。それはとても小さな世界だ。三人は笑顔で暮らしている。力を合わせて、とても幸せそうだ。照子も自分の足で緑色の草原の上を子犬のように駆け回っている。髪も体も真っ白なままだけど、少なくとも照子は自分の意思で動けるようになったみたいだ。照子は本当に楽しそうに笑っている。初めて見る、照子の笑顔。その笑顔はまるで太陽のようにきらきらと輝いていた。




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