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「結局、技術ってどこまでいくんだろうね?」夏は澪に話しかける。

「どうなんだろう? 全然想像もできないよね」技術の結晶のような存在である澪は、自分を生み出した人類の技術についての話なのに、まるで他人事のように素っ気ない。宇宙に行くことに夢中になっている澪にとっては、あんまり興味のある話ではないのかもしれない。

 しかしよく考えてみると、実際に人間と人工知能は他人のような存在なのかもしれないと夏は思い直した。たまたま隣に引っ越してきた隣人のような距離感の存在だ。

「どんなことが可能で、どんなことが不可能なのか、きちんと発表してほしいよね。そうしないと現実と空想がごちゃまぜになっちゃうでしょ? 実現可能だって考えてた技術がさ、実は空想でしたって言われてもね、なんか困るよね。もうその空想の世界で遊び始めちゃってる人はそうしたらいいんだって話だよね」

「それがわかる人はきっといないよ」澪は言う。

 こうして話をしてみると、澪がそれなりに博識であることがわかる。どうやら澪は遥のノートパソコンの中で、時間さえあれば、ずっと興味のある情報を読んでいるようだ。(今も澪は夏と会話をしながら、なにかの情報を検索し、参照しているような節がある)なかなかの勉強家だ。夏は学園の成績はかなり良いほうだが近くに本物の天才がいたので勉強することがあまり好きではなくなっていた。努力では天才に勝てない。頭脳労働は天才に任せればいいと思っている。そもそも働くことが夏は嫌いだ。日本国でも、世界でも、最上位の資産家の令嬢として生まれ育てられた夏にとって労働とはどこか遠い異国の国でのおとぎ話のように聞こえる。実感はないし、今のところ、働く気もなかった。

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