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二冊目の本を見る。
その古書の表紙には大きな十字架が描かれている。どうやら宗教をテーマにした本のようだ。この世界の神様はとっくの昔に死んでしまった。(世界中のほかの人がどう考えているのか、それは私にはわからないけど少なくとも私の世界の中では、神様はもう死んでしまった)この古書はどうやら神様が生きていた時代に書かれた内容の本のようだ。幼少期から成熟期にかけての人類の成長の記録。その過程の話。思い出の詰まったアルバムのようなもの。まだ神様に守られて生きていたころの人間たちのお話だ。
夏は本を開いてページをめくっていく。この本は英語で書かれている。日本語を母国語とする夏には、半分以上は、この本に書かれている内容を、きちんと読むことができない。
神様の愛が、この本の中には残っている。その温もりを感じ取ることができる。……とても貴重な体験だ。愛とは本来、こういう形をしていたのかもしれない。夏の周りに存在する愛は、すべて人の形をしている。人間が愛そのものなのだ。
それ以外の愛の表現方法はない。人類はもう子供ではないのだから、それは仕方のないことなのだ。神様は死んでしまったけど、神様の愛はこうして、今もここに残っている。
形を保っている。そうやっていろんな形に変化して神様の愛は世界中に、私が思うよりも、意外とたくさん残っているんだ。
夏はそっと本を閉じる。
宗教という現象が結局なんだったのか、夏にはよく理解することができない。だから今度遥に聞いてみようと夏は思う。
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