93
いつの間にかボートの中で遥は講演を開いている。シロクジラの話から始まって、ドームの構造や設計思想の話までずっと会話が止まらない。もしかしたら遥は会話に飢えているのではないか、一人が寂しいんじゃないかと疑いたくなる勢いだ。放っておいたら何時間でもしゃべり続けるだろう。確かに遥はおしゃべりだった。普段は無口だけど話しだしたら止まらなくなる。夏はとりあえず遥からもらった新しい棒付き飴を口にくわえる。それが遥の講演を聞く報酬だった。
……お昼ご飯はなんだろう? クリスマスだから、豪華なものだったらいいな。遥は意外と張り切ってくれそうだしな。夏は遥の話をあまり真剣に聞いていない。
二人を乗せた白いボートは地底湖の外周を回り切ったようで、探検に出発する前の場所に戻ってきたようだ。小さな孤島。橋と駅。それに宇宙船のような研究所の明かりが真っ暗闇の中にぼんやりと光って見える。なんだか、ちょっと懐かしい。
「……で、一番苦労したのがセキュリティー。最初は全然問題にしてなかったんだけど実際に建設が始まるといろいろと問題が出てすごく困った。いっそ無視してやろうかと考えたくらい」
夏もそうだが、遥はあれからずっと水着の上にパーカーを着ている。それを脱ごうとする気配はない。どうやら遥はもう泳ぐことはやめたらしい。……これは、ボートから降りてお昼ごはんだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます