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 自分でもよくわからないけど、異常に照子のことが気になった。ずっと頭の中に照子がいた。とても可愛く思える。もしかしたら私はこの白い赤ん坊に恋をしているのかもしれないと思った。照子のことを愛しているのかもしれないと思った。

 わからないから知りたい。近づきたい。一緒になりたい。理解したい。

 照子に命が宿っていることを遥がほかの研究員の人たちに話しても、周囲の人たちは認めてくれなかったけど、少なくとも遥にはそう思えたし、それを信じることができた。確かにその現象は本来ありえないことだ。だからこそ、それは奇跡という言葉でしか呼べない現象だった。遥は奇跡を目撃したのだ。照子はきっと天使だと思った。私を救うために天国から降臨してきた天使だった。照子は遥に生きる目的をくれた。それは遥が生まれて初めて、自分以外の他者から受け取った真実の愛の形だった。遥はそう理解した。

 木戸遥はこのとき七歳だった。彼女は生まれて初めて恋に落ちた。相手は自分の生み出した白い赤ん坊だった。それから遥はあらゆる方法を使って当時の雨森研究所と旧姓の雨森照子を手に入れた。それらは意外と簡単に手に入った。世間での評判は照子よりも遥のほうが圧倒的に上だった。事実、遥はこれから無限に近い価値と富を生み出す金のたまごだった。

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