12

「なに、あれ?」

 遥の後ろに一人の子供がいる。一瞬それがなんなのか夏には理解できなかった。遥の背中に隠れるようにしてこっちを見ている。前髪が顔の上半分を隠している。それなのに明らかに視線を感じる。髪の毛の奥の瞳でじっと夏を見ている。口元は明らかに笑っていた。

「ああ、紹介するよ。名前は照子」

 そう言って遥は椅子ごと少し後ろに移動する。大きなガラスの向こう側。真っ白な明るい部屋の中。小さな椅子に座ってじっとしている子供がいる。

 信じられないくらいに美しい造形をした全身が真っ白なお人形のような女の子。

 長く美しい真っ白な、まるで真珠のような、あるいは蚕の繭から作り出した上質な絹のようななめらかな髪に、海のように深く青い二つの大きな宝石のような瞳。手も足も真っ白。おまけに着ている洋服も真っ白な無地のワンピースだった。

 その服は体の線が見えてしまうのではないかというくらい薄い不思議な素材で作られている。それ以外に身につけているものはない。靴も履いていない。白い女の子は裸足のまま、その小さな両足を空中に浮かべている。椅子から伸びた足が床にまで届いていないのだ。女の子はあまり、まばたきをしない。

 その女の子はさっき見た子供と(前髪で目を隠していないこと以外は)同じ子供のように見える。二人は双子のようにそっくりだった。

「いや、その子じゃなくて……」

 夏は遥の周囲を見るがそこにさっきの子がいない。あれ? 消えた? じゃあ、さっきのはなに? 夏は混乱する。そんな夏の様子を遥はいつの間にか、どこからから取り出した棒付き飴を口にくわえながら観察している。

 もしかして、からかわれてる? 遥のいたずらだろうか? ……ありえる。 

「なんでもない。とにかく言いたいことが山ほどあるし聞きたいことがたくさんあるんだけどさ……、まずは私になにか言うことがあるでしょ? あんたは」

 遥は不思議そうに眉をひそめる。夏の言っていることが理解できないという表情だ。

 夏はリュックサックを床の上に置くと、腕を組んで遥を睨みつける。

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