Mighty☆Doll ~自分のドールと異世界戦士~

Soul

第1話 異世界戦士始めました

1-1 始まりの始まり

 もし、ここ___自分の住む場所とは違う、別の世界があるとしたら。



自分がその世界を行き来でき、大冒険ができるとしたら_______。







春の空気。



ジンチョウゲやサクラの甘い匂いが、風に乗って運ばれていく。


昼過ぎの麗らかな中、一人の少女、赤音結衣あかねゆいは歩いていた。


黒がかった茶色の髪と淡いピンクの瞳、肩先まである髪が風でなびく。

前髪は向かって右側で、ハートのピンで留められていた。


真新しいぱりっとした制服が、彼女のやや小さい体を包む。



「わあ…」



「結衣ー。何してんの?」


「美樹」



満開の桜並木の中、突然隣から背の高い少女が背を叩いた。


「そっちも終わったの?学校」


「今はどこもそう。入学直後の高校生なんてさ」



明るい茶髪のサイドポニー、鮮やかなくりんとした緑色の眼。

ハキハキと、美樹と呼ばれた少女は話す。



「で、今は何を?」


「きれーだなーって…。桜」


「だねー…。毎年こうやって咲いてくれるのが、ありがたいよね」


小中学校と、揃って歩いてたいつもの道。この春からは、それぞれ違った制服に身を包む。

それが寂しくも、ある種の旅立ちのようでもあった。



「目標ある?今んとこ」


「うーん…穏やかに、楽しく過ごせたらそれでいいかな」


「そっか」


結衣は息を吸い桜を見た。諦観でもないそのままの本心は美樹も解っていた。


住宅地で美樹と別れ、ただいまと家の鍵を開ける。

遠くに母親の声を聞き、諸々の支度を済ませてすぐに自分の部屋へ向かった。


絵や漫画の置いてある部屋で、新しいスクールバッグを床に置く。着替えるために制服のリボンを外そうとすると、


「えっ?」


棚の人形が光っていた。見間違いでなければ、だが。

目を擦ってまたじっくり見る。人形から発される、消えるどころか増す輝きに、結衣は魅入られたように見つめる。



ビスク・ドール。正確にはキャラクタードールと聞いた。



""良かったわねえ買ってもらって""


"やったー!"



幼い頃どこかの古道具屋で買ってもらった、小綺麗な赤い服の人形。

放つ赤い光に、訝りつつも引き寄せられ、直感的に右手で触れると、瞬時に取り巻く感覚が変わった。




「______!!」




身体が浮き、本棚の奥へ引き込まれる。

本棚は溶け、体がぶつかる事はなく、更に奥へと進んでいく。

風に押されたように息ができない。

握った人形の手は変質していく。自分と同じぐらいの、人間のような手に。


離さまいとしがみつき、目を閉じ風に覆われていると、突如周りの空気が開けた。

解放された体が空気を吸い、硬い土の上に着地する。


いつの間にやら履かれた靴、違和感ある感触。

恐る恐る目を開けると、


「……?」


そこは、全くの別世界だった。



深い森。後は何も見えない。知る範囲で強いて言うなら、RPGに似ている。

結衣が手を繋いでいた人物から、凛とした女の声が掛かった。



『ご無事ですか、?』

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