第142話 隠蔽された宝

 野菜を販売する販売所。焼き魚を振る舞う屋台。冒険者向けの雑貨を売る店。

 会場を回って祭をしっかりと堪能した僕とラフィナは、大量の荷物を持って家へと帰った。

 屋台の料理が余りにも美味しそうだったので、昼飯は屋台料理で済ませてしまった。たまにはこういう食事もいいもんだね。

 僕は買ってきた薬草を店に運び込み、作業台の脇に備えてある箱に入れていった。

 思っていたよりもたくさん買えたから、しばらくは薬草の仕入れはしなくても良さそうだ。

『随分物が多い家ね』

 作業台の上に置いたマンドラゴラが、珍しいものを見るようなニュアンスで言う。

 僕は適当な大きさの器を持って、作業台の傍を離れた。

「そりゃ、此処はよろず屋だからね」

 器に水を汲み、作業台に戻る。

 マンドラゴラを水に浸して、話をしやすいように椅子の正面に置いた。

 椅子に座り、両手を組んでマンドラゴラをじっと見つめる。

「それじゃ、聞かせてくれよ。あんたの話」

『いいわよ』

 マンドラゴラは水を得たことが嬉しいのか、弾んだ声で僕の言葉に答えた。

『貴方、ヒルコの森って知ってる?』

 ヒルコの森……確かアメミヤから南に馬車で半日ほど行った場所にヒルコという名前の街があり、その近くに小さな森があったように記憶している。

 その森が何だというのだろう。

『その森に、特別な力を持った宝物が隠されてるの』

「宝物?」

『神様の力を授かった宝物と言われているものよ』

 神様の力……って、随分大袈裟な話だな。

 おそらく、それは魔術の道具(マジックアイテム)の類なのだろう。魔術の道具(マジックアイテム)ならそういう力を持っていても不思議じゃないからね。

『わたしは元々ヒルコの森で暮らしていたんだけどね。わたしが植わっていた場所のすぐ近くに、人の目には見えないように封印を掛けられているところがあるの。そこに、その宝物が隠されているのよ』

「へぇ」

『わたしを森まで連れて行ってくれたら、その場所まで案内してあげるわ。──どう、悪い話じゃないでしょう?』

 成程。話は理解できた。

 人の目に見えないように封印を掛けられた宝か……

 ダンジョンに隠されているような宝には興味がない僕だが、わざわざ人に見つからないように封印までされている宝というのにはちょっと興味がある。

 でも、それだけのために魔物がいるかもしれない森に行くのは……

 僕が考え込んでいると、まるでその葛藤を見抜いたかのように、マンドラゴラが必死になって言葉を続けた。

『お願い。わたしを森まで連れて行って。わたしは森に帰りたいの。元の暮らしに戻りたいのよ』

 僕を宝の元まで案内するというのは建前で、こっちが本音か。

 小さいのに必死に生きようとしているマンドラゴラを見ていると、ちょっぴり可哀想になってくるな。

 ラフィナと暮らし始めたことによって、僕の中の母性本能が少しずつ刺激を受けやすいように変化してきたのかもしれない。

 ……行ってみるか。その場所とやらに。

 シルバーを連れて行けば、魔物は何とかしてもらえるはずだ。

 これも人(?)助けだと思って、一肌脱ごうじゃないか。

「……分かった。あんたのことは責任を持って森に返してやるよ」

『ありがとう!』

 僕の言葉に、マンドラゴラは嬉しそうに言った。

 僕はそれに微笑みを返した。

 人から感謝されるのは悪い気はしないものだ。

 その感謝を裏切るような真似はしないように、準備はしっかりして現地に向かおう。

 封印された宝……一体どんなものなんだろうね。

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