クジ運最悪な俺とまだ見ぬ未来の少年少女4

 人工皮膚なのに大爆発。


 神経接続義手の未接続品を装着しただけなのに使ってみる前に大発火。


 人工義眼のモニターに触れれば虹色の画面に早変わり。


 俺のクジ運は相当スゴかった。訳の分からんバグばかり引き起こす。もはやこれってクジ運なのか?しかし金のなる木になった才能は最悪ではなく最高であろう。考え方次第って奴。


 俺を利用したい時は研究所の奴らみんなクジを作る。相変わらず俺は"当たり"が引けない。これってズルじゃね?と抗議するとクジは平等だと懇々こんこんと説明される。天才達に理論武装されたら敵わない。


***

 

 毎日愉快で気がついたら独身で億万長者で63歳を迎えていた。藍子の息子が30歳くらいの結婚適齢期。そろそろノブが生まれるはずだ。これからもっと楽しくなるって、俺って超ラッキー。そうだ、世の中っていうのは多少は平等。"一生分の当たり"の代わりは最高の人生。うん、これでやっと平等だろ。


 アシモフ博士は118歳だがまだまだすごぶる元気。しかし現役から退くと宣言した。しんの私設研究所設立と誕生日プレゼントとしてPUREピュアシリーズ1 "愛を発現するアンドロイド"の夢を背負ったアイカ・アシモフが贈られた。しんも開発に携わった"アトムを作る"夢の第一歩。


 トモの姉はトモにさっぱり似ていなかった。亜麻色の髪に空色の瞳。どう見てもロボットって感じだけど、すごぶる美人。ドングリどんちゃんしんには不釣り合いだと思ったが黙っておいた。こうして俺の視界をクリーンにしない女がついに現れた。しかし俺の興味はもう女よりノブに向かっていて。数回しかアイカ・アシモフとは会わなかった。俺が遊んでも反応無くて全然面白く無いんだもん。


 そうノブだ。トモはこの先しんが作るだろう。いや俺の為にいつか作ってもらおう。しかしノブの事は探さないとならない。迎えに行かないといけない。


「息子を探しに行くから。アデュ!」


 まだまだお前はひよこだなと皮肉の代わりにしんの机にひよこパジャマと置き手紙を残して俺はアシモフ博士の研究所を飛び出した。ほとんど夜逃げ第2弾。一度日本に戻って榊原夫婦さかきばらふうふの人生を追うことにした。超発展した情報社会なのにてんで榊原敬信さかきばらたかのぶ、榊原藍子さかきばらあいこは見つからなかった。


 俺はすごすごアメリカへ帰ってしんに泣きついた。ずっと楽しみにしていて、今日も視界は半分灰色世界なのにノブが見つからない。まだ見ぬ未来の少年少女を信じていたから、明るく楽しい人生だった。ハーフグレーワールドが俺に告げてきた。この道の先に二人が居るって。絶対会えるはずなんだ。


「無断欠勤して何してたんだよタカ」


「だから息子を探しに行ってた。何処にいるの?俺の息子!」


 手紙の内容は本気だったのかとしんが呆れかえっていた。超本気なんだけど。だって確かに俺は会ったんだ。優しくて儚げな親想いの少年とその彼のことが大好きな少女。


「僕が欲しいものをくれたら全力で探してあげようタカ」


 しんの約20年越しの逆襲。俺は悩みもせずに"鉄腕アトムの初版本"を差し出した。


「モモーン山の嵐は?隠し持ってるの知っているよ」


 俺の蔵書、バレてる。


「ダメだどんちゃん。それは息子にやるんだ。モモーン山の嵐は……代わりに新宝島をやろう」


「何その上から目線。僕の助けが必要なんだろう?両方貰おう」


 勉三さんミニマムバージョンが懐かしい。すっかり丸々肥えたどんぐり中年男。天才が薄命なんて嘘っぱちだ!大天才が俺に向かってニヤニヤ挑発的に笑っている。絶対師匠のアシモフ博士ぐらい長生きするこの男。俺の勘は良く当たるんだ。


 畜生!外道が!


「覚えてろよ!」


 こうして俺はジイちゃんの形見を奪われた。しかししんは約束通り、それもあっという間にノブを探し出してきてくれた。俺は隠しておいた"UTOPIA 最後の世界大戦"までも献上した。内容覚えているから自分で絵本でも作ろうと思う。死ぬ前にはしんから取り返してやる。


***


 ノブは三歳だった。色素が全然無い真っ白い体、髪の毛、睫毛。猫みたいなクリクリとした赤い目。俺が知ってるノブのミニマムバージョン。祖父母と両親にたっぷり愛されてる可愛い男の子。ジョナサン・サカキバラって名前が付いてた。病気もないようで普通に文明社会を生きている。


 でも俺の左目は灰色。


 ん?


「農家を継いだのは知っていたけれど、それが何でまたアシモフ博士の助手として働いているんだ?」


 榊原敬信さかきばらたかのぶにキャベツが嫌いで家を飛び出した事、変な才能が役に立つと思ってアシモフ博士に直談判に行った事、遊んで暮らして金持ちになるはずがこき使われた事を話した。嘘も方便、かつて矢野藍子やのあいこを傷つけた男が楽しくて仕方がない人生を歩んだとは堂々と言えない。それが人情ってやつ。


「浮気性治らなくて結婚も出来なかった。でもまあ楽しいよ」


 ノブことジョナサンを抱っこしたかったが、ジョナサンは敬信たかのぶにベッタリだった。かなり凹む。これから何がどうなって俺の息子になるんだ?ジョナサンはジジイ二人に飽きてトテテテテっと部屋から消えていった。一番大好きなママの元へでも行ったのだろう。


「奇妙な縁だ。家政婦アンドロイドの修理を依頼したら君と会うとは」


 陰謀だけどな。


「あなた!ジョナサンが!」


 のんべんだらりとした初老のティータイムは榊原藍子さかきばらあいこの悲痛な叫びで強制終了された。応接間から居間へ移動するとジョナサンがヒューヒュー変な呼吸をしていた。父親の重信しげのぶと妻のエミリー、そして藍子が慌てふためき、泣きそうな顔をしている。


 俺の左目が徐々に半分綺麗ハーフクリーン


 ん?


「レスキューを!重信!」


 ん?


 ジョナサンのすぐ近くには家政婦アンドロイド。シン・ウエハラ博士の特許を使用した最新機器。


 "最新機器"


「触るな!俺は医者だ!」


 めっちゃ大嘘ついた。家政婦アンドロイドからジョナサンを遠ざける。次第に左目が灰色に戻っていく。


 この目はノブの命とも繋がっていた。


***


 しんのツテでパスツールというアレルギー疾患その他の権威にジョナサンを診てもらった。もちろん俺の話も添えてもらって。


***


 ジョナサン・サカキバラ 3歳


 過敏性人工光源トラーティオ症候群シンドローム


 世界初の罹患者


***

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