クジ運最悪な俺とまだ見ぬ未来の少年少女2

 野菜農家の次男坊。相原隆あいはらたかしは平々凡々。ゴジラ松井に憧れて野球をはじめた。野球させてくれたら家を継ぐって言って、大学までプロを目指した。箸にも棒にもかからなくって、野菜農家が嫌だから勝手に都内の企業に就職した。俺って嘘つきな親不孝者。


 藍子に無事婚約破棄されて田舎に帰ってきた俺だけど、そんなに肩身は狭くなかった。ついに家業を継ぐ親孝行な息子として登場したから。まーた嘘ついてる親不孝者だけど、子供が幸せなら親もハッピー。問題無し!俺はノブの存在を知ってその結論に至ったので可愛い孫を連れてきて許してもらおうと考えた。キャベツ農家は一般ピーポー兄貴に継がせろ!俺は平々凡々から脱出する!


 とりあえず祖父から古い知恵を学ぶことに全力を注いだ。嫌いなキャベツも愛することにした。


***


 パチパチ燃える炭を眺める。なんか落ち着く。


「何か企んでるだろう?隆」


「そ、そんなことないぜジイちゃん」


 九十歳になる祖父のあきらは勘が鋭い。俺の嘘はいつも見抜かれていた。俺はこの血を引き継いでいる。ありがたやありがたや。


「古臭いものなんて大嫌いなお前が、炭の扱いに料理に裁縫を教えてくれなんてな。物作りなんて面倒、買えば楽だなんてズボラ者。それがどういう風の吹きまわしだ?」


「成長しようかと思って。これでも傷ついてるんだぜ、婚約破棄」


 信じられないというジト目を投げられた。正解です。


 ノブと暮らす準備だ。好き嫌いなんて言ってられない。俺ってズボラだから気を配って科学からノブを遠ざけるってのは多分無理。ついうっかり殺しちゃいそう。なら科学なんてない昔ながらの生活をすれば良い。俺って天才。


 毛嫌いしていた手間暇かかる生活は、触れてみると楽しかった。食わず嫌い良くない。よし、これは新相原家の家訓にしよう。


「人生に何が役に立つか分かんないから」


 かまどで火をおこすって大変。これ毎日やるのか?超面倒。でもユラユラ燃える炎は美しい。パチパチって音も落ち着く。


「まあええ隆。どっか行くなら何でも教えておいてやるよ」


 バレてる。でも怒られなかった。さすがに死にかけのジジイはかどなんて一つもないくらい丸くなった。昔は逃げ回っていたけど、死ぬ前に一緒に過ごす時間を作れてよかった。どうせ老い先短いんだからと俺は祖父に未来からきた少年少女の話をした。


「ひ孫のためなら何肌でも脱ぐかあ」


 俺が帰ってきた時よりも元気そう。もうろくしないで無事死んでくれそうだ。やっぱ老衰が一番でしょ。


 始めチョロチョロ、中パッパ、ジュウジュウ吹いたら火を引いて、赤子泣くとも蓋とるな。 最後にワラを一握りパッと燃え立ちゃ出来上がり。何これ超絶米がうまい。健康になりそう!


「美味いだろ」


「超絶美味い!」


 背が丸まっていた祖父が、グググっと大きくなった。まだまだ余力あるんじゃん。ちょっと安心。


「ロクデナシの孫を鍛え直す。大往生する前の最後の一仕事。こんなやりがい中々無いぞ!小生意気なハナタレ小僧め!」


 祖父自慢の愛刀、チョップが炸裂した。いつもいつも痛いっつうの!


 昭和初期生まれの祖父はあっさり信じた。それか単に俺に付き合ってくれた。多分孫が自分の人生で培ったものを教わるってことが楽しいから。まだ生まれてこないノブは、こうして祖父あきらに死ぬ前の生き甲斐をもたらした。


 生まれてきたら祖父の名前を拝借しようと俺は密かに決意した。


***


 こっから祖父は約10年も生きた。元気になり過ぎだ。


***


 三十の時、フェイスブックで藍子が結婚して子持ちになったことを知った。息子を産んでいた。黒髪フサフサのザ・ジャパニーズベイビー。この息子と外国人が結婚してノブが産まれる予定。やっぱり視界は半分灰色。順調だった。


 ノブが持ってた写真の俺がヨボヨボだった理由が目出度く判明した。


 婚約者の孫とは奇妙な縁だ。榊原さかきばら夫婦と断絶した俺の人生は、また二人に繋がる。運命って変なの。俺はさすがに幸せな二人を見たくなくて、嘘、俺が孫を奪って幸せになるのが申し訳なくてフェイスブックを閉鎖した。スマホも解約。俺は今のうちに文明社会から遠ざかり慣れておく。別段不自由は無かった。


***


 金をどうするか、どうやって渡米するのか俺はウンウン悩んだ。ひとまず英語版のドラゴンボールとナルトを読み漁った。日本語読んで英語読む。からきし勉強ダメな俺でも、これなら興味を持って取り組めた。ジャンプは世界共通、偉大なり。


「金かあ、バグ回収の仕事ってどうやって手に入れるんだ?」


 考え過ぎて、気がついたら十年近く経ってた。


 見合いさせられるたびに俺の視界がクリーンになりかけたので突っぱねた。半分グレーな俺の世界を維持したままでいてくれる女を探そうと思う。人間の三大欲求に勝てない俺は、ちょっと近所の娘に手を出し過ぎた。祖父も俺に古の知恵をあらかた残して大往生したのでそろそろ田舎から脱出だ。


 それにしても毎日毎日ジイちゃんと遊んでるみたいで楽しかったな。つまり俺とノブとトモの生活もすごぶる楽しいだろう。


「バグ回収。それにこの目の慰謝料。そんなんで金を稼げるのか?」


 ゴロゴロと自室で英語版ワンピースを読んでいる時、ふと新聞が目に入った。梅を干すのに使おうとした新聞紙。


【アンドロイド国際学会発足。立役者はアンドロイド権威のアイザック・アシモフ。天才日本人少年の上原真うえはらしんを弟子に指名〜以下略〜】


 アンドロイド


 ウエハラ


「こいつだ!トモを作ったウエハラ博士!絶対こいつ!まだ12歳⁈8歳でハーバード大入学ってどんだけ飛び級したの⁈」


 微妙な笑顔をした少年。容姿はキテレツ大百科の勉三さんミニマムバージョンって感じで暗そうな少年。なんかこいつ早死にしそう。トモをちゃんと開発するまで生きてもらわないと困る。天才って孤独死するとかっていうし。


 近くで見張ろう。


「勤務先はアシモフ博士の研究所ね。アメリカか」


 冴えてる冴えてる俺の勘。多分。



「超天才の発明のバグを発現させる。これか!金のなる木!」


 俺の勘が冴えわたる。発想の転換という奴だ。


 変な副作用に奇天烈キテレツな事象を起こす俺のクジ運。絶対研究に役に立つ。喉から手が出る程欲しいって思うはずだ。きっとそうだ!それがバグ回収の仕事だ!


「アンドロイド製作の国際規格三大項目。第一項、アンドロイドは人間に危害を加えないように製作しなければならない。だって。トモ破ってんじゃん。これはクレームだな」


 こうして俺は未来のウエハラ博士こと上原真うえはらしんに手紙を書くことにした。

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