第61話 SS 在りし日の面影 タピタ
どこからか視線を感じる。
今の俺の場所が分かる奴は……確か、視える奴がいた。
立ち止まる音に目を顏を上げると、一人の女性が立っていた。
「探したんだよ?」
「そうか。」
「……帰ろ?」
「それは、できない。」
泣かなくなったな。
病弱な少女の成長は、この場に立っている事が証明している。高濃度の魔力に晒されても、自力で体内の魔力濃度を調節できるようになったのだろう。もって、5分だろうか。
腹部をかばう事も無く、俺の前に歩いてくる。後遺症は無さそうだ。
「ゆっくり、は出来ないか。」
「うん、もう離れないと……。」
「そうか。元気でな。」
有無を言わさず別れを告げる。一度は言葉を飲み込んだ女性だが、拳を握り締め、一歩、また一歩と近づいてくる。
「キツネさんも一緒に——」
「帰らないなら、送るぞ?」
二度目。
手を伸ばせば届く距離で見つめ合う。装備はボロボロだ。手荒い歓迎を受けたのだろう。
せっかく助けた命なのだから、もう少し有意義に使ってもらいたい。
髪も伸びたんだな……腰まで伸ばしたのか。手入れをしているのか、とても綺麗だ。
肌が、震えている。限界だな。
相棒がゆっくりと動き出した事を察し、少女に言う。
「眠れ。」
「一緒に……。」
「……おやすみ。送ってやってくれ。」
地に伏した女性を街へ送るよう頼む。黒い葉を飲ませ、頬に
残りの人生も楽しんでくれ。
相棒が女性を送った際の燐光を見送り、ため息をつく。
垂れた耳と動かなくなった両足を鬱陶しく思いながら、元の位置で丸くなる。
相棒が俺の表情を窺っているように感じた。
「問題ないだろ? もう、来れないはずだ。」
薄目を開けて答えると、相棒の枝は頭上に戻っていった。心配なんてしなくて良いさ。
さて、もう一度眠るとするか……。
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