第30話 SSメイ

 その日の目覚めは最悪だった。夜だけど。


「あ、ねちゃって……た、わね。」


 起きたばかりなのに、再度、机に突っ伏す。すり鉢状の木製の皿が床に転がっている。

 はぁ、考えてもみてよ。起きたら昨日までの成果が、床のシミになっていたのよ?やってらんないわ……。


「はぁ~材料も残って……ないか~。よしっ、面倒でもりに行かないと、かなっと。」


 独り言を言いながら立ち上がる。くよくよしない。数少ない取り柄だけど、誇示することはない。腕を前から上に伸びをしながら、部屋の状況を確認する。

 洞窟に見つけた丁度良い場所を、使っているだけ。壁から水が染み出していたり、天井の穴から差し込む光で明かり要らずな所も良い感じ。少しさぐってみると、魔力の豊富な箇所があるので補給もバッチリ。優良物件って言うのかしらね。


「ん~? あっちに2つ、こっちに1つかぁ。」


 探し物は血液……飲むわけでもないけど。魔力の流れやすい物ってだけね。……誰に説明してんの、私は。天井から外へ飛び上がり、近くの魔獣をとりあえず……。


「え、何? 上がってくる?」


 探知範囲外の地中から、急速に上昇してくる存在。総量だけなら私の倍以上の魔力。警戒しないわけがない。十中八九、魔獣だろう。大型ではなさそうだけれど、少し様子見かしらね。

 高度を上げ、十分じゅうぶん離れる。さぁ、何が出てくるか……。あの亀裂、深そうね。


ゴオオオー……ドシュッ!


「……ぐぇ!」


 何アレ。亀裂から勢いよく飛んでいったけれど。思っていたよりも小さい。さっきまで感じていた魔力はどこに行ったのだろう。少し周囲を確認する。あの黒いのが、さっきの……わけないわね、弱そうだし。素材として試してみるのは良いかも?

 上空で身を捩り、急降下する。無警戒な獲物の首を踏み抜く。夜の狩りは、これが一番確実。上手くいけば首が折れ、絶命する。血が目的だから、首を吹き飛ばすわけにはいかない。


「っ!?」

「ぐぅぅ……お、重い。」


 手加減したとはいえ、首への蹴りを受け流したようだ。胴体を踏みつけ、一気に離れる。何か膜のようなものに邪魔された。


「少し、魔力を持っていかれたかしら……。」


 あの黒いのは、生きている。明かりを点滅させて何をしてるのかしら。狩れない獲物は無視して、他を探し……。村見っけ。上空から近づいていく。家畜も材料になるし。


「一匹くらい持って行っても良いわよね~……静かね。」


 静か。誰もいない……いや、一人だけいるわね。縛られてる? あ、ここにも亀裂が。


 ……ん~? 静かすぎるわね、廃村なのかしら。そんなに廃れたようには見えないけれど。縛られているのは子どもね。生贄だとしても、村の中央に置くかしら……。変なの。滑空しながら近づいていく。規模が大きいわね。人族の実験?


ググッ


「くぅ……。」

「……ふーん、人族も面白いことをするのね。」




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