第15話 SS3-2 if2

 宙づりのエレナを無視して休んでいると、ようやく泣き止んだエレナが俺を見つけたらしい。なんとか俺に気付いてもらおうと無い頭を捻って考えている。

 その様子を薄目で見て、今か今かと待っていた俺だが、数分待ってみてエレナが目をつむったまま動かないことに気づく。様子を見に近づくとハッキリと分かった。寝てやがる……。

 俺の横にカミラさんも歩いてきてエレナを見上げる。


「考えて答えが出なかったら寝るって……。」

「良いのよ。エレナは昨日初めて夜勤をして眠いだろうから。」

「良いのか?」

「エレナは頑張ってるのよ? 誰かさんが来てからは特にね。」

「失敗したから巻かれているんじゃないのか?」

「……それもあるわ。一段落したから降ろしても良いのだけれど。」

「しばらくしたら起きるだろ。それより仕事は終わったのか?」

「ええ、今日は終わりよ。リーネを起こしてくるわね。」


 カミラさんが図書棟へ歩いて行く。

 周りの事務員たちは、つい今しがたまで席の暖まる暇も無いほどだったが落ち着いたようで席にうち掛かりぐったりしている。お疲れさん。

 受付に立つ職員はまだ元気そうだ。エレナは……口元にキラリと光るものが見えたがそっとしておこう。まったく……ミノムシ状態で良く寝られるな。

 そこで、ふと悪戯心が刺激された。


 受付の職員に断りを入れ、休憩室に置いてあるシーツのような大きな布切れを浮かせ運んでくる。

 黒球に細かく指示をして布切れを巻き、エレナをてるてる坊主にする。

 何名かの職員が俺とエレナの動向を伺っているが無視して作業を続け、カミラさんとリーネが受付に来る前に作業を終わらせた。


 夕暮れ時の商業ギルド内は職員により灯された明かりで手元が見える程度の明るさを保っている。明かりもタダではないので必要なところにだけ灯されているのだ。

 リーネは天井から吊るされ、なぜか布切れを首に巻いてマントのようにしているエレナに首を傾げている。

 カミラさんは俺が悪戯いたずらしようとしていることが分かったようで困った顔をしている。

 よし、みんないるな……。俺は余った布切れにクリスマスツリーの電飾の絵を描き、黒球に告げる。


「エレナの首に巻いている布切れをこんな感じで光らせてやれ。」


 よだれの垂れたエレナの首から下が様々な電飾を施したかのように光りだした。

 一定間隔で明滅を繰り返す布切れがシーリングライトのように光り、夕暮れ時の商業ギルド内を照らしている。

 商業ギルド内は静かになった。俺の動向を見守っていた職員達が呆然としている。

 リーネは口元を押さえ笑いを必死にこらえているな。

 カミラさんと目が合うと俺に向かって手招きをした。

 カミラさんの元まで近寄ると、俺に耳打ちしてくる。


「これ、エレナを降ろしたら……大丈夫なの?」

「大丈夫だぞ。しばらく光ってるだけだ。」

「そうなの……エレナは任せるわね?」

「あいよ。」


 流石のエレナも目の前で明滅する光で起きたようだ。

 慌てたと思えば、興味を示しキョロキョロしている。さっさと降ろしてやろう。


 エレナを降ろすと俵巻きにした縄がほどけてしまったので、裁縫の要領で玉結びを作る。そして布を括りつけ傘のようにした。点滅しているのも邪魔か……提灯のように柔らかな光を放つようにしよう。


 エレナは俺の作業が終わるまで待っていたようで、俺がため息をつくと同時に顔を寄せてくる。


「キツネさん! あの明かり凄いよ! キラキラしてるし、ポカポカしてたよ!」

「お、おう……。ってよだれ!」


 余程気に入ったのだろう。よだれ跡もそのままに寄ってくるので拭ってやる。こういう所は一年経っても変わらないな、と考えつつため息をつく。

 じっと見つめる俺を、首を傾げ不思議そうに見るエレナに言ってやる。


「よだレーナ、そんなに気に入ったか?」

「よだっ……こほん、キツネさん? あの明かりはどういうものなの?」

「あれはイルミネーションだ。室内を飾り付けたり、道端の木を飾り付けて光らせたりするんだ。結構綺麗だぞ。」

「へぇー、そんなの見たことないなぁ……。新年祭って言ったら、中央広場とか酒場の近くで騒ぐくらいだもん。」

「そうなのか、中央の水たまりで何かするか?」

「水たまりって……一応、この街の湧き水を大切にしましょうって意味を込めて作られているんだから……。」

「……ひゅー、ふゆー……。」

「吹けない口笛してもダーメ、反省しなさい。」

「おえんにゃあーいー。」(ごめんなさーい)


 俺たちがじゃれあっていると、ごうを煮やしたカミラさんにまで揉みくちゃにされた。

 楽しむだけ楽しんだ二人は清々しい笑顔で帰宅の途につく。リーネが俺たちの前を歩きながら露店で夕飯を買っているようだ。

 俺はボサボサのままエレナに抱えあげられ不貞腐れている。エレナとカミラさんが俺の頭越しに今後の予定を決めているのを聞きつつ、エレナのおごりで何を買ってもらうか考えておこう。

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