第268話 シリアルキラーのデスマスク

 俺は今寄白さんに名前だけは聞いたことがあったけど、その他のことは詳しく知らなかったシリアルキラーのデスマスクの話をきいている。


 「シリアルキラーデスマスクとは文字通りシリアルキラーの死後その顔の型を石膏でとったものだ」


 「ああ、だからシリアルキラーのデスマスクっていうんだ。そこは単純だね?」


 う、うわ~寄白さんおまえバカなの?的な目で見てるし。

 いや話のとっかかりとしてはいいじゃん? だめ?

 

 「……また別のシリアルキラーの遺体を前に前回のシリアルキラーのデスマスクを砕きそれを石膏に混ぜて、再度シリアルキラーの顔の型をとる」


 「えっ、そ、それって」


 シリアルキラーってひとりだけじゃないのか?


 「それがシリアルキラーのデスマスクだ。たったひとりシリアルキラーの顔型をとったくらいでレベルファイブの忌具になると思ったか?」


 「い、いや」


 完全に心読まれてる? 単純に考えればわかることなのに。

 たしかにひとりのシリアルキラーだけじゃみんなが怖れるような忌具にはならないか?ってことは誰かが何人ものシリアルキラーの顔の型をとりつづけてきたってことになるのか。

 シリアルキラーのデスマスクには加害者側と被害者側両方の負力が大量に入ってそうだな。

 

 「それを何度も繰り返すうちにやがてデスマスクの表情はになったという」


 「マジで? じゃあどんな表情に?」


 「……漆黒のマスクに鮮血のように紅い蝶の模様が浮かんでるんだとさ」


 おお、なんかこれぞ忌具って感じになってきた。


 「じゃあシリアルキラーのデスマスクって黒いお面のなかに紅い蝶の模様が入ったマスクなんだ?」


 「ああ、私も本物は見たことはないけど。たしかに参考資料ではそうなってた」


 ああ、なら只野先生が見てた「忌具辞典」には載ってるな。

 あれって専門書だし。

 

 「シリアルキラーのデスマスクって九久津の家にあるかな?」


 「……」


 む、無言? な、なんか意味深それってないかもしれないってこと? まさか紛失? 紛失ってや、やばくね?


 「えっと寄白さん、あの」


 「レベルファイブが稼働している忌具保管庫のどこかには……」


 いまいちわからないけど日本じゃないところにあるのか? ならまあ問題ないか。


 「ことの発端はまず雛が妖精を見たことに遡る」


 そこで妖精にいきつくのか?


 「そこで繋がるんだ?」


 「そうだ。雛はシリアルキラーのデスマスクそのものを追ってるんじゃなくて妖精を追う仮定でシリアルキラーのデスマスクの影を感じたというほうが正しい」


 「そっか。社さんはあくまで妖精がシリアルキラーのデスマスクの出発点だと思ってるんだ?」


 「だからこそ妖精の影のちらつく山田をマークしてたんだ」


 「納得」


 なら多くのシリアルキラーは妖精の影響だったってことか? 生物の授業でも似たような雑学を聞いたな。

 「ロイコクロリディウム」って寄生虫はカタツムリに寄生してカタツムリを操り自らイモムシのように擬態し、わざと鳥に食べられて飛行移動するんだよな。

 妖精もそんなふうに人に寄生してたりすんのかな? さっき寄白さん妖精は人の歓喜に反応するっていってたし。

 あっ!? 

 妖精の外来種っていってたけどそんなふうに大陸間を移動する可能性もあるんじゃないか? いや、それはないな。

 不可侵領域の影響で鋳型が変形してる説のほうが正しそうだ。 


 「……雛はノンフィクションの物語を読んでいるうちにシリアルキラーのそばに妖精らしき記述があるのを発見した。そこで雛は妖精がシリアルキラーになる前の人間になんらかの影響を及ぼしているんじゃないかって仮説をたてた。当然仮説だから他国の当局も知らないし日本当局も知らない」


 「なるほど」


 それって社さんと同じ本を読んでもアヤカシの知識がある人じゃないと気づけないもんな。


 「でも二条先生は知ってる」


 「えっ? 二条さん、なんで?」


 「文科省の職員だから独創的な発想をする生徒に目をかけるんだ。だから雛の仮説に一目置いたのかもしれない」


 それって非公式ながらも社さんの仮説が日本当局に認められたってことじゃん!?

 しかも二条さんって救偉人だよな?


 「それよりももっと問題なのはこの歴史の中で誰がそのシリアルキラーたちの顔の型をとってきたのかってこと」


 「ああ!! そ、そうだ!? その都度シリアルキラーの死に立ち会ってないと無理だ」


 いったい何年かけてシリアルキラーのデスマスクが作られたんだ? だってマスクの表情がなくなって黒に紅い蝶の模様が浮かぶまでだろ? おいおい、やっぱやべーじゃん。

 ……なんでここでまたその存在・・が浮かぶのか? でもそれをやりそうなのってそいつしかいないからだよな。

 山田にその自覚はないにせよ、あいつも蛇に睨まれてるってことなのか? そうなると蛇のターゲットが曖昧すぎる。


 「ねえ、寄白さん山田が能力者ってことはないの?」


 「ない」


 「劣等能力者ダンパーって可能性も」


 「それもない」


 「どうしてわかるの?」


 「L非常階段のドアを開けられなかったからだ」


 ああ、そっかあそこは能力者に反応するんだった。

 人体模型がブラックアウトしたときに二条さんが「六角第一高校いちこう」の四階にこれたのも能力者という最低条件をクリアしていたからだ。

 なら山田能力者説はなしか。


 藁人形の腕を使い負力をブーストさせてモナリザをブラックアウトさせた点から

考えてみると「六角第一高校いちこう」を無差別に狙った? なんのためにだ? 動機に当てはまることってあるか? 山田が能力者なら蛇に狙われる動機があるかもしれないと思ったけど、ただ単純にインフルエンザに罹ったように妖精に寄生されただけなのか? ……い、いや「六角第一高校いちこう」じゃなくもっと広い場所か? バシリスクは六角市を狙っていた? たとえば真野さんをブラックアウトさせたのちに「六角第一高校いちこう」の破壊が成功していたならそれは六角市の【北町】にまで及ぶ。

 そうなればやがては【中町】【西町】【東町】【南町】にも影響がでる。

 六角市すべてがターゲットか? でもそれを【Viper Cage ―蛇の檻―】に書こうにも証拠がなさすぎるな。


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