第六章 慟哭の跫音(あしおと)

第262話 早起き

 ああ、やっぱ朝は眠てーな。

 しかも今日は寄白さんに呼び出されてるからとくに熟睡れなかった。

 部屋のカーテンを開けスタンドミラーの前に立って目のチェックをする。

 だ、だめだ。

 太陽の光でぜんぜんわからん。

 やっぱ洗面台にいこう。

 俺はそのまま一階に降りて脱衣所兼、洗面所の電気をつけ鏡の前であっかべーをして目をたしかめた。


 う、うん、これはスマホ見過ぎで怒られるやつだ。

 昨日も同じだったよなワンシーズンのWeb記事読んで神話系のサイトにいってって。

 やべーな、二日連続同じことしてる。

 だがしかし高二の自然治癒力なめんなよ。

 今日の夜までに治してみせるぜ。

 それに【啓示する涙クリストファー・ラルム】のほうも大丈夫そうだたぶん。

 といっても只野先生が処方してくれた目薬のおかげなんだけど。


 俺は昨日、布団のなか寝転がってノストラダムスの大予言のアンゴルモアのことを調べてみたけどふつうの都市伝説っぽい内容しか見つからなかった。

 それもそうか一条さんと二条さんが退治したんだしそれがネットに出てるわけがない。


 機密は徹底して守られている。

 この世の中なんでもかんでもネットに出回ると思ってたけどそうでもないみたいだ。

 まあ、当局がそんなザルセキュリティなわけがないか。

 海外には機密事項リーク用のサイトもあるけど、そこにも流出はしてないみたいだった。

 本気でアンゴルモアが出現したなんてことは世間的には大事件だし民間人に知るすべはない。

 俺も能力なんかに目覚めてなければ、そんな出来事は笑い話で終わっていたはず。

 ふつうの人が知らないことは知らないままでいいのかもしれない。


 ただ、俺は別の都市伝説を見つけてしまった。

 この俺のスコップセンスよ。

 将来は絶大な影響を誇るインフルスコッパーにでもなってみるか。

 いや、猛威を振るうインフルスコッパーだ。


 ……猛威を振るうインフルって、それはもうほとんど”エンザ”だな。

 おー、寝不足ってすげー!!

 思考回路がやべーことになってる。


 この頭のなかの考えをエネミーに知られたら確実にバカにされる。

 心のなかだけに留めておいてよかったセーフ。

 アンゴルモアが出現したかもしれない同じ時期に、とある海の上に謎の暗雲、雷雲(?)が出現していたらしい。

 その雲から人工的な大きな雷が海に向かって放たれたとか雲の中から出現した突風が数千キロ離れた町を壊したとかいう話だった。


 その風は物理法則を無視したように進んでいったらしい。

 巨大な雷を「インドラの矢」と呼んでいる人もいた。

 雲はまるで自家発電でもしてるように音と光がハンパじゃなっかったみたいだ。

 って積乱雲ってそんなもんじゃね? 雨と雷の巣窟みたいな大きな雲が積乱雲なんだし。 


 でも高まる、ロマンだ。

 あっ、これは天空庭園的なやつか? まさか雲の中に、ま、街があったとか? ファフロツキーズの魚なんかもそこからの落とし物とかって話もあるしな。

 空中都市の可能性もあるか? 俺は昨日、社さんとの電話もあったしなんだか目が冴えてなかなか寝つけなかった。

 だからネットの海に潜ってしまいこの有様だ。


 ただ、アンゴルモアが退治されたから、いや、一条さんと二条さんが退治したから、

今、俺たちは無事に毎日を過ごせてるってことなんだけど。

 校長もいってたな「誰かが与えてくれた余暇」って。

 考えようによっては消滅くなっていたはずの未来をくれたってことでもあるんだ。

 

 いつか現社の授業で先生がこんな話をきかせてくれた。

 旧ソビエト連邦に核戦争を未然に防いだ人がいた。

 「世界を救った男」として知る人ぞ知る人物だ。

 場合によっては「1983年9月26日」を境にして、今はまったく違う世界だったかもしれない。

 そもそも存在さえしてなかったかもしれない。

 俺がスマホだなんだってやってる便利な世界ごとなかったかもな。

 本当に何十億人のなかの「ひとり」が世界を変えることがあるんだ。


 さあ、学校にいく準備しねーと。

 遅れたら寄白さんのコールドスプレーが待ってるかもしれない。

 そうと決まればさっそく。

 俺を鏡を背にしてリビングに向かおうとしたけど、なんとなくまた鏡に向かってしまった。


 「ふ~」


 そうだ、忘れてないけど、忘れてた。

 あの、なんつーか、今日も一日よろしくお願いします。

 心の中で九久津の兄貴に挨拶する。

 九久津の兄貴が一緒だとわかるとなんだか身が引き締まる感じがする。


 あっ、今日の時間割り確認してねー。

 たしか一時間目が「日本史」で、二時間目が「現国」だった気が……それ以降がわからん。

 朝から体育はなかったはず助かったぜ文科省。

 昨日も思ったけど、時間割は先生たちが職員会議で決めてるはずだよな。

 

 俺はまた、二階にいこうと脱衣所兼、洗面所の電気を消して部屋をでる。

 廊下を歩いてるとリビングのほうから朝のニュースが聞こえてきた。


 ――鷹司官房長官。米国雇用統計べいこくこようとうけいの発表でNYニューヨークダウは385ドル下がりましたが?


 ――雇用統計の発表だけじゃなく大型ハリケーン、エスメラルダの被害がいまだに尾を引いているからでしょう。


 ――失業率の悪化は限定的だと?


 ――はい。そう考えています。

 

 ――エスメラルダによって倒産した企業も多いはずです。それにまたハリケーンが発生したとの情報も入ってきています。さらにアメリカの景気が失速するのでは?


 ――そこはまだなんともいえませんね。


 ――そうですか。今回のハリケーンアンドロメダも前回のエスメラルダと同等あるいはそれ以上の規模との予測もでていますけれど。


 ――アンドロメダ?

 

 ――はい。今回のハリケーンの名前です。


 ――なるほど。まずは午前九時。日本の市場が開きしだい注視していきたいと思います。


 ――日経平均にも波及するとお考えですか?


 ――そこまでの懸念はありませんね。


 ――ですが日経平均に名を連ねる225社。その関連企業の多くがアメリカに進出しているはずですが?


 ――はい。おっしゃるとりです。


 鷹司官房長官って入院中の総理大臣の代わりやってる人だ。

 この人もやっぱり億分の一人いちの人だよな~。

 俺はそのあとの官房長官の話をきかずに二階に戻った。


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