第243話 「孤独」と「仲間」

 「社さん。ありがとう。俺独りじゃそんな考えは絶対に思い浮かばなかったよ」


 「そう。よかった」


 なんでもかんでも独りで抱え込むのよくないってのはわかってるんだよ。

 でも誰かの迷惑にならないか? 誰かの負担にならないか? 今を生きている人はすくなからずみんなそんなことを思ってる。

 人生って「道」だと思ってたけど、きれいでなだらかな「道」を与えられている人ってのはほんの一握りの特権階級だ。


 そんな人たちだけが頑丈で安定した舗装を歩くことができる。

 それ以外の人はみんな綱を渡っている、いつ切れるかわからない綱、いや、いつ切られるかもしれない綱を。

 一寸先は闇。

 みんな明日を約束されているわけじゃない。

 「不安定」な毎日が「不安」でしょうがない。


 すこしでもバランスを崩せば落ちていく。

 袖を引っ張っても落ちていく。

 引っ張られても落ちていく。

 そんな時代のそんな世界だ。

 そりゃあ誰も他人に目を向けないよな? 目の前のロープで精一杯なんだから。

 

 「やっぱり、誰かにいえるっていいね? 話し相手がいるとか相談相手がいるとかって大事だわ」


 「よかった。でも、どうして? 私にはいえたの?」


 「最初はこの話をどうやって話せばいいのかわからなくて隠したほうが楽だなって思ってたんだけど。途中でいおうかいわないかみたいな考えがなくなって自然に話せてた。へたにどうしようかなんて考えが消えて意識しなくなったんだと思う。社さんが俺に協力してくれてるってわかったから」


 「ふふ。それって私は信用されてるってことでいいかな?」


 俺は寄白さんも九久津も校長も社さんもエネミーも信用してる。

 それはどんなことがあっても俺を陥れることはないって信頼があるからだ。

 反対に蛇は関わる者すべてを陥れようとしている。

 

 「うん、そう。それにこの話って九久津の兄貴が関わってる以上、九久津にはいえないし。校長が近くにいるぶん寄白さんにもいいにくいし」


 「あっ、美子が板挟みになるかもしれないって心配したんだ? 美子、喜ぶかもよ?」


 「そうかな?」


 「女子ってそんなものよ」


 そ、そうなのか? まあ、それならいいけど。


 「だから社さんにならいえるって思って」


 「たしかに私なら堂流くんまでワンクッションあるからね」

 

 「なんだかんだ六角市ここでアヤカシと戦ってる俺の同世代って社さんと九久津と寄白さんだけだから。あとはまあエネミーも、かな? だから仲間意識」


 「じゃあ沙田くんの中に堂流くんがいるって話は私と沙田くんの秘密にしておいて、いつか沙田くんの魔障が治ったあかつきにみんなに話ましょう? それなら沙田くんの中に堂流くんがいたことを黙っていた理由もみんなわかってくれるはずだし」


 「うん。そうしよう。そのときに俺がみんなに話すよ」


 「……」


 なぜか社さんが急に黙ってしまった。


 「スマホの電波悪い?」


 「ううん。……九久津くんのあの黒い風もそんなような理由でいえないのかな……?」


 あっ、九久津のことか……? そういう想い・・があるからなおさら心配で心配でしょうがないんだろう。

 でも、社さんがそんな弱さを他人みせたのは初めてな気がする。

 バシリスクが出現した日なんて校長のほうが圧倒されてたし。

 ってことは無意識かもしれないけど社さんも俺にすこし心を開いてくれてるってこと? ……あるいは俺の中に九久津の兄貴がいるからかもしれない。

 まあ、とりあえずここは平常心でいこう。

 

 「きっとそうだと思うよ。九久津も誰かを巻き込むくらいなら自分でなんとかしようとするタイプだから」


 って俺らみんな物の見事にそのタイプだな。

 俺はつぎの言葉を社さんの不安を払拭はらうために使う。


 「だから九久津が社さんになにもいわなかったのは社さんに・・・・心配をかけたくなかったからだと思うよ」


 「だ、だよね!?」


 社さんは社さんにしてはめずしく声を弾ませた。

 そんな一面もあるんだ。

 バシリスクが出現した日「六角第一高校いちこう」の校長室ではじめて会ったときとはまるで違う。

 第一印象とは真逆で社さんもやっぱり高校二年生の女子なんだ。


 「沙田くん。なにがどうなって沙田くんの中に堂流くんがいるのかわからないけど。そうなるかもしれない可能性・・・なら私にもわかるかもしれない」


 社さんはそのトーンのままで話をつづけた。


 「えっ、どんな?」


 俺の中に九久津の兄貴がいる可能性がわかるって?


 「たぶん。星間エーテル」

 

 せ、星間エーテルか。

 ってことは魂の移動、まさか転生? じゃあ九久津の兄貴は俺に転生しようとしたってことか? け、けど、俺にはがいるんだからおもいっきりバッティングするじゃん!?

 って、そういや俺の中にはなにやらいっぱいいるわ。

 ツヴァイドライとラプラス。

 今さらながらだけど俺って解放区フリースペースかよ!? 

 それを考えれば俺の中に空き部屋みたいな空白スペースがあったりするのかもしれない。


 「星間エーテルか。それなら俺でも理論は理解できた。じゃあ九久津の兄貴はバシリスクの戦闘のときになにかの理由で俺に入ってきたってことかな? まさか避難先として俺を選んだ?」


 なんで俺にそんな能力があるのかわからないけどツヴァイドライが俺に出入りしてるってことはそういうことなのかも?


 「私にはいつ沙田くんの中に堂流くんが入ったのかはわからないわ。バシリスクのときに沙田くんに入った可能性もあるし。まったく別の日って可能性も」


 そのまま社さんの声が小さくなって――あるわね。という囁きのような声とともに会話が途切れた。

 そして突然ボリュームをゼロから大音量に上げたように――あっ!?っと社さんはなにかに気づいたようだった。


 「そういえば子どものころ。うちのお父さんたちを含めた大人が話してたな……」


 「……ん? なにを?」


 「堂流くんのバシリスクから受けた毒の広がりが大きかったとかなんとかって」


 「それってどういうこと?」


 「これはあくまでも今の私の仮説なんだけど」


 「うん。それでもいいよ」


 「堂流くんの守備力が低下してたんじゃないかな? だからバシリスクの毒が広がって大きくなっていった」


 あっ!? 

 じゃあバシリスクとの戦いの前にはすでに……。

 

 「九久津の兄貴の守備力が下がってたのはすでに星間エーテルが抜け出してたからってことだよね?」


 「ええ、その可能性が高いかなって。ただバシリスクと戦った当日に堂流くんの星間エーテルが抜け出した可能性もゼロじゃないけど……」


 なるほど、でも今の段階じゃどこでそうなったのかは憶測しかできないか? まあ、いちおう九久津の兄貴の星間エーテルが抜け出したかもしれないって話自体が仮説だから。

 ただバシリスクとの戦の日、あるいは俺が鵺と会った日くらいに九久津の兄貴の星間エーテルが抜け出した可能性は高いかも。

 俺はそこから社さんとしばらく可能性だけの話をして最後に【Viper Cage ―蛇の檻-】のエネミーの書き込みの話をして電話を終えた。

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