第202話 創世の神話 開闢(かいびゃく)
――
鱗に覆われた蛇とも
俺は
怪物は喉の奥から
小さな木々ならばこの一息で簡単になぎ倒されてしまうだろう。
ただし
ここは見渡すかぎり木々ひとつ存在しない世界、虫一匹の存在も許されない環境。
「おまえはいつでも
空気を振動させる重低音が俺に語りかけてきた。
さらに俺の目を釘づけにしたのは
それほどの巨体でしかその樹齢何百年ものような首は支えられないだろう。
「
「
怪物に備わっている異形の頭部は八つあってそのひとつは
他の七つの頭も
長い首をそれぞれ不規則に揺らして俺の
獣臭い風がふたたび俺の体をかすめていく。
怪物がクジラほどの大きさの尾を揺らすと――ズッシーン。と重い音が響いた。
そいつが動くたびに周囲の空気もピリリと委縮する。
鼻の先が俺の頬に触れた……いや触れているのかどうかはわからない。
けれどきっと
ここが寒いのか暑いのかもわからない、ただすこし先に目をやると赤と
あのマグマに触れることができるのかできないのかもわからない。
あれは熱いのか冷たいのか? 温度なんてのはそれぞれの個体の感じかただ。
熱帯魚にとって適温とされる最大公約数的な温度は
たとえば摂氏一度で生きる魚にとっての二十度は死を意味する。
二十度の半分の十度であってもそれは死の環境だ。
逆説的に考えて生存可能な環境下で測る温度を基準に暑いのか寒いのか? 熱いのか冷たのいか?を判断しているにすぎない。
世界が変われば融点も沸点も変わる。
俺の経験則からいえば、今のこの状態は雲が蒸発するほどの環境……。
でもすぐにマグマの脇のほうからピキピキと凍りはじめた。
今はまだしょうがないか灼熱も極寒も同類項としてある。
いや、これは俺の速度領域の捕らえかたか?
「それでも俺は……」
「決断」か「逡巡」のどちらかの選択を迫られているようだったから、俺は巨大な怪物の
「つくづく因果な運命だな。いや、おまえにとっては“因果”も“運命”も同義か?」
「ああ」
俺はそう答えるしかなかった。
「
つまり
もう何百年分を費やした。
「
「おまえにそれができるとは思えんな?」
そいつは笑った、いや、そう見えただけかもしれない。
でもたしかに片方の口の端を吊り上げていた。
ただ、俺にはそんな怪物の表情の見分けかたなどは知らない。
それでもわかってしまう、それが俺とこいつの前回までの
「つぎはいったいいくつの
特異点は時間の支配から解放された存在。
時間の強制力からゆいいつ
「ああ。
「
「きっと変えられる」
「
巨大な怪物は大きな目をギョロリと見開き
真横には
ロンギヌスがどこに刺さっているのか、いや、刺さってさえいないのかもしれない。
「そうだとしても
「Y(時間)軸は消滅。Z(単位)軸は均衡を保ったまま。X(並走)軸は破損。X軸の残骸がこ今回のX軸にもくい込んでくるだろう。……中途半端な三点軸をどうするつもりだ?」
「今はまだわからない」
「……まあ、いいさ。どのみち物語の最終章おまえはまたすべての記憶を忘却の彼方へ消し去っているのだから」
八つの長い首は俺に背を向けたまま扇状に広がり天を仰いだ。
「それも
俺がオロチと呼んだその怪物は振り返ることなく――ズズズ、ズズズ。と巨大な音をたてて歩いていく。
大きな山が動くがごとくオロチは轟音をとどろかせ
高音域と中音域と低音域が混成した叫びが空気を破裂させる。
遮るもののない
地上に
産れたばかりの朝が目覚める。
刹那も永遠も変わらない。
光は日光と月光の境界もなく延々と降りつづけた。
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