第175話 優しさ
俺が「
まあ、早朝だからといえばそれまでだし、病院はほぼ電子機器も禁止だろうし。
昨日だって
あのときもなかなか大変だったな~。
てか、あれはエネミーが勝手に動き回るからなんだけど。
校長は今日も朝早くからたくさんの書類を広げて仕事をしている。
俺は反対に校長室のふっかふかのソファーに腰をかけてそれを見ていた。
PCに文字を打ってはときどき書類になにかを書き、机の上にある印鑑を押す。
俺が「
校長は動かす手を止めることなく俺と器用に話をしている。
ついさっきなんて薄い紙に切手を貼ったから、それをどこかに
税金とかに関係あるもので俺は今はじめて収入印紙という物の存在を知った。
俺には一生縁がなさそうだ、てか税金とか書類とかってめんどくさそう……。
「沙田くん。深刻な魔障じゃなくてよかったわね?」
「はい。おかげさまで。ただ僕の中にいるモノとはしばらくはつきあっていくしかないかな~と」
「話を聞かせてもらったかぎりそうよね? 伝えたいことを伝え終わると完治するんでしょ?」
「はい。僕を
「そっか。意外と前向きね?」
「そ、そうですか?」
校長にいわれてハッとした。
それもそうか? なんだかんだいったって【
ただ、中のモノが穏やかつーか、爽やかつーかどことなく親近感があって頼れるみたいな。
「でも
「なんのこと?」
「たとえば
「ああ、そっか沙田くん知らなかったんだっけ?」
「はい」
「けど、僕っていろいろ放置されてる気がするんですけど……そういうような知識のこととか」
「そうね~」
ここで校長の手が止まった。
「そもそもね。沙田くんが能力者としていずれ六角市に現われることはずいぶん前に分かってたことなのよ」
校長はつづけて吐息のような――そう。を発した。
それはどこか自分を納得させているようなニュアンスだったから校長自身に向けられたものだろう。
「えっ、というのは?」
「あっ、ちょっと、この書類終わってからでいい?」
「はい、どうぞ」
……なんだかんだ俺がいちばん俺のことを
俺はふつうに「
そしてその初日に寄白さんと九久津に出逢った。
しばらく学生生活を送っていたら弁当に塩を盛られて気づけば四階に呼び出されアヤカシとの戦いに巻き込まれていた……。
あっ、あの塩って俺を四階に案内するためだよな……? たしかあの出来事って俺が転校してから約一ヶ月後のことだ。
早い話し、俺の弁当に塩を盛るなんていつだって出来たことじゃねーか? それって寄白さんと九久津が一ヶ月待っててくれたってことじゃん。
俺があんまり早くに人体模型、ヴェートーベン、モナリザなんかに会ったらビビって逃げる可能性もある。
それに死者との戦のときに校長は――それはすこしずつアヤカシに慣れてもらうため――つまりは耐性をつけて沙田くんの力を覚醒させようとしたの。本当にごめんなさい勝手なことをして――っていってたな。
あっ!?
校長も寄白さんも九久津も……さ、三人ともあんまり俺を急がせないようにタイミングを見計らってくれてたのか?
――いいな。僕は憧れるよ。期待されるがゆえの放置って。きっときみは能力者として特別な存在なんだろう。って只野先生のあの言葉も……。
別に俺は放置されてたわけじゃなくゆっくり時間をかけてもらってたんだ……。
そっか、そうだよな、俺はアヤカシと関わってきた経験日数がぜんぜん違うんだから。
それこそ寄白さんや九久津や校長は生まれたときからアヤカシや忌具が身近にあったんだ。
なんで俺は気づかなかったんだ。
校長は俺にアヤカシの起源も渡してくれたし九久津の家の忌具保管庫の存在も教えてくれた。
これっていろいろ教えられてる
来週習う授業の問題がたまたま今日出題されてしまったていどのこと。
ものすごい量のアヤカシの知識を一ヶ月で覚えろ――ドン。って分厚い紙の束を積まれてみろ。
完全にジ・エンドだ? 覚えきれねーってなるだろ? か、確実になるな……。
学校の主要五科目の中間テストの範囲であたふたしてるくらいなんだから。
なんでもかんでも一度にぜんぶこなすってわけにはいかない。
そうだよな。
たかだが
その知識はゆくゆく知ることになる。
……ん……ん……?
あっ、「ゆくゆく」って言葉、それは今のこの時間も「
そうだ、やっぱ俺はバカだ。
俺は校長と寄白さんと九久津だけからしかアヤカシに関する情報は得られないって先入観があった。
でも違う、近衛さんと一緒になって知れたこともある。
社さんやエネミーに教えられたこともある。
そうだ
俺は俺と関わってくれるすべての人から学べばいいじゃねーか。
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