第114話 疑惑の人
九条が思い浮かべたのは日常を切磋琢磨する同僚の顔だった。
それは同じ【総合魔障診療医】の
市内には六角市出身の救偉人がふたり存在している。
それは今は亡き九久津堂流と、もうひとりがその只野だった。
九条の描く只野の表情が徐々に形を変えていく。
四十代ほどの只野の表情が急激に歳を重ねると高齢に近い輪郭が姿を現わした。
九条の中で
「そうだ。四仮家先生なら可能だ。只野先生の恩師なら」
(僕はバカだ。なぜ気づかなかった。血を抜くことに
九条はまたメモ用紙の紙を破って、そこに簡易的な機械のような図を書いた。
(そうすれば九久津堂流の中にきれいな血液が流れて、毒を含んだ血が
九条の中でキーマンが出現したことによってバラバラだった点が繋がっていった。
(四仮家先生は一般の医療分野でも脳神経外科の権威。医学的知識は問題ない。その立場ならY-LABの解析部にも顔も利くだろうし。またかつては六角
九条はもう一度院内のデータベースにアクセスした。
【
すぐにPCがデータを読み込みはじめた。
――キーン!!
警告音とともに大きな文字のポップアップメッセージが現れた。
【お使いのIDとパスワードでは退職者データの閲覧はできません!!】
(……最近は個人情報の規制もきついからな。僕のアカウントじゃダメみたいだ。僕が知りるかぎり四仮家先生の経歴は医師業以外なら高校の校長をしてたってことくらいか……)
九条は思いを巡らせながら右上のバツ印を押してポップアップを閉じた。
そのまままた無意識で九久津堂流のデータを呼び出した。
クラッカーの糸を引いたように画像が一括展開される。
画像はファイルごとのナンバーを無視して何重にも重なっていた。
不規則でいながら不均等な九久津堂流の
(九久津堂流……いったいきみになにがあったんだ? 僕はきみの弟を
九条は
さきほどは気づかなかったことだが、画像を相対的に見比べることで気づけることだった。
(どことなくだが毒の
そこで九条は逆説的に当時の九久津堂流の主治医を調べようと考えた。
主治医が四仮家ならば九久津堂流との接点が強まりこの謎を解く手がかりになるかもしれないと思ったからだ。
だが頭の中ですぐにそれを打ち消す考えも生まれた。
と、同時にPCを操作する手も止まる。
もし、四仮家が厚労省のデータベースをも編集できるのなら九久津堂流の主治医としての情報など残さないと考えたからだ。
仮に残っていてもそれはすでに
どちらにせよ、これはデータでの判断よりも過去に九久津堂流の手術に立ち会ったスタッフを探せば早いという結論に至る。
九条は画面を凝視しながら天上に向けて腕を伸ばした。
(集中力も切れてきたな)
腕を真横に二、三度伸ばしてストレッチすると急激に立ちあがった。
椅子の背もたれが勢いよく
(“しんさつ”ですこし頭を冷やすか。二条はまだいってないだろうし)
九条は今日診た患者のカルテのコピーをスチール棚からとり出した。
縦横きれいに揃ったカルテをまるでトランプを切るようにしてめくっていく。
カルテに目を通しながら、なにかの準備運動のように左と右それぞれの足首を個別に回している。
「えっと。今日は遠方からきた患者さんも含めて
九条はカルテを閉じる。
――【
九条は魔障の名前をはっきりと口に出して読み上げると、壁のハンガーから真っ
そのまま襟を正し
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