第42話 三人目

 {{ドライ}}

 

 白装束の沙田おれがもうひとりた。

 

 「ドライか?」


 九久津の目ではもうおれの動きを捕えられないようだった。

 ただ俺はこの一手さきおれおれがどういうコンビネーションをみせるのかはっきりとわかっていた。

 なんたってⅡとⅢあれなんだから。 

 校長は目を見開いて驚嘆おどろいている。

 

 死者は欠けた体を再利用してそれを触手のように変形させて伸ばしてきた。 

 うねるようにしておれおれに襲いかかっていく。

 だが、ただでさえおれに振り回されている死者は、突然目の前に現れたおれに驚き、一段と迷うことが多くなっていた。

 俺と校長が四階にきたときよりもだいぶ隙も多い。

 

 すでにおれが放射状の黒い衝撃波を放っていた。

 よし!! 

 これが死者に当たれば相当なダメージなはずだ。

 簡単に当たった!!

 死者の体に蜘蛛の巣状のヒビが走りさらにそこからピキピキと裂け目が広がっていった。

 死者の触手が完全に伸びきる前に瓦解くだけた。

 無策な死者ではもう勝機はないだろう、俺はこの戦局を冷静に分析できていた。


 「圧倒的だ」

 

 九久津は寄白さんの態勢を仰向けに変えて抱きかかえた。


 「美子ちゃん、見える? ついに覚醒したよ……」

 

 「沙田……」


 寄白さんはうっすらと瞼を開け、おぼろげにⅡ、Ⅲおれらと死者の戦いを見たあとに、今ここに硬直本体おれを見た。

 俺の頭の中で声がする。


 『おまえは沙田雅さだただし真名まな運命雅さだめみやび。そこにおわす御方おかた依代妃御子よりしろひみこ殿。そなたは妃御子殿に従え』


 これってさっきこの場所で聞こえた声。

 ってことは俺の頭の中に響いてるのがラプラスの声か? 依代妃御子って寄白さんのこと……? 俺は頭の中になぜか「依代妃御子よりしろひみこ」という字が浮かんできていた。

 九久津に抱き抱えられてる寄白さんに視線を移す。

 おれおれは周囲の真っ黒なオーロラを引き剥がして死者の前方と後方から挟んで包帯を巻くように包んでいった。

 まるでふたりの子どもが回転式ジャングルジムで遊んでるようだ。

 死者は蹴鞠けまりで使う竹の鞠のように規則正しくくるまれた。


 おれおれは、左右から同じタイミングで球体をグシャっと押し潰した。

 中からなにかが飛び出したり物体が破裂するようなこともなく死者はマジックショーのように消えた。


 あれってたぶんどっちかの力が強すぎても威力の相殺はできない。

 きっとおれおれは同じタイミングで死者の消失点に同等の力を加えたんだ。

 死者は断末魔のひとつもなくあまりにあっけなくその姿を消した。

 同時におれおれ沙田おれの体へと戻ってきた。

 周囲の景色が透過していき闇が徐々にクリアになると、四階は色をとり戻した。

 いつもの「六角第一高校いちこう」の日常がかえってきた。

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