第9話:巡礼再開



結局、何も採取しないまま戻ってきたジズは、大樹が見えると安堵の息をついた。背後に誰もいないことを確認してから中に入ると、目を閉じて横たわるタテハの前に座っていたロコが振り返る。


「ああ、ようやく帰ったか、そこまでと言ったわりに時間かかったな」


「ん、ちょっとね……」


ジズはフードをかぶって俯き、ロコと目を合わせないようにして彼の脇をすり抜けた。怪訝そうな視線が痛いが、彼はそれ以上は何も聞いてこなかった。代わりにすり抜けた先に目を覚まして佇むイリアの方が心配そうに目を細めている。ジズは少し苦笑してイリアの頭に手を置いた。大丈夫、そう意味を込めて。


ロコは二人を振り返らずに工具をまとめてしまいながら口を開いた。


「ちょうどタテハも組み上がった所だ。お前の調子はどうだ?」


「悪くない」


「そうか、ならいい」


行くぞ、とロコが言うのでジズも頷く。イリアだけが一人、オロオロしながら二人の背中を見上げた。


「えっ!?待ってよ、ジズの顔色を……」


「わかってる、見誤ることはない」


それよりお前も早く支度しろ。


タテハを指輪に収納し振り向きながら言う。イリアはまだオロオロしていたが、おぶろうか?と言うジズの申し出を断って立ち上がった。しかし、なおも視線が注がれるので、


「俺は大丈夫だから、気にしないで」


と、もう一度彼に微笑みかけた。そこでなにか言おうとしたところに偵察に出ていたヨイが戻ってくる。


「次はここから比較的近くにありました。近くに使われていない小屋もあるので、夜明けまでの行動可能です~。良かったですねぇ、ジズ様?」


横目でこちらを見ながら貼り付けたような笑みを浮かべる。とんでもない悪人面だ。ジズは苦笑して頬をかいた。


「なんか、嫌味っぽいな」


「ええ、嫌味ですもの」


「くだらん。さっさと案内しろ」


スパリとジズを切った言葉をロコがさらに切ると、はいはーい、と気軽に返事をしてみせる。


三人は手早く荷をまとめてヨイの案内に従ってうろを出た。月は少し西に傾いて、森の様相を少しずつ変化させていた。ジズはそれをぼんやり見上げながら先導するヨイについていく。


「これですよ~、そうでしょ?イリア様」


どれぐらい経ったのか、その声でジズはハッと我に帰る。いつの間にか目的の場所についていたようだった。


「うん、これだ。息吹を感じる」


《リリーコール》が甘い香りを漂わせている近くに佇む枯木、その木肌に触れながら言うイリアが視界に入る。


「今度は倒れないでくださいねぇ。貴方に倒れられるとめんどくさいので」


「大丈夫だよ、今度は絶対にうまくやる」


イリアはゆっくりと呼吸を整えて手を合わせた。

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