キューゾウとカツシロウ
今日も今日とて、修行中の白雪姫。
細く長く息を吐いて、足を前後に大きく開き、身体を沈ませている。そこから強く前足を踏み込んで、勢いのままに前方宙返り。
「チェストオオオ!」
そして、手にした斧で薪を割った。
「ふうっ」
これで3本目。
姫は汗をぬぐった。
目の前には、森から拾ってきた小枝や、切り落としてきた木が積んである。こういった生木を割って、断面から水分を逃がして乾燥させ、薪をつくるのである。
「あと500本ほどですわね」
「……効率が悪くはないか……?」
そう言ったのは、一緒に薪割りをしていたキューゾウだ。7人の小人の中でいちばんの剣術の使い手、いつも腰に刀を差している。
「白雪どの。お主の動きは速い。だが、それだけでござる。緩と急を併せもたなければ、無駄な動きばかりをすることになる」
「けれど、遅ければ避けられてしまいますわ」
「こうするのでござる」
キューゾウは、肘までくらいの長さの、太い薪を縦に置き、刀を抜いた。
(まさか……刀で薪を?)
肉のように柔らかいものは、斬ることができる。鉄のように硬いものでも、細ければ断つことができる。だが、木材のように重いものを割るにのは、刀は不適だ。悪くすれば刀身が折れてしまうだろう。
「はっ!」
にもかかわらず、キューゾウは刀を振り下ろした。
(遅い!)
姫は思った。この速度では、刀は跳ね返されてしまう。
が、次の瞬間、刀が消える。
(!!)
いや、急激に加速をしたため、目から消えたのだ。気がつけば、木は真っ二つになっていた。キューゾウはゆっくりと、ゆっくりと刀をしまう。
「緩から急。急から緩。雷鳴のように速く、雲のようにゆるやかに。名付けて、雲下雷斬剣でござる」
「感銘しましたわ! 老師!」
「ふっ。老師などと……拙者は修行中の身。呼ぶならば、先輩と呼べでござる」
「先輩!」
「ふっ……」
「さっそく、私もやってみますわ!」
「え?」
言うが速いか、白雪姫は薪を置き、素手で構えをとった。
雲のようにゆるやかな動き。そして、そこから轟く雷鳴の手刀!
パカァン!
薪は見事に2つに割れた。
「名付けて! 雲下雷斷手! ですわ!」
声を弾ませ、拳を突き上げる白雪姫。
キューゾウはぼそりと呟いた。
「あっという間に先生を超えるのは禁止でござる……」
※ ※
次の日。
その日は、ぽかぽか陽気のいい天気だった。
暖かな日差しに包まれて、柔らかい草の上で寝転ぶウサギが数匹。大きな母ウサギと小さな子ウサギだ。いずれもフワフワの綿毛の固まりのようで、それが揉み合って遊ぶ姿は、何ともほほえましかった。
と。
母ウサギが跳ね上がった。
続けざまに子ウサギも。
刹那の後で、森に怪鳥のような叫び声が響き渡る。
「チェェェェストォォォォォォ!」
樹上から飛び降りてきた白雪姫の蹴りは、母ウサギをすんでの所で仕留め損ない、ウサギたちは茂みの中に消えていった。
「くぅぅぅぅ~!」
姫は悔しげに、地団駄踏んだ。
「もう少しで、皮を剥いでソテーにしてやりましたのに!」
「お姫様って……意外とワイルドなんだな……」
ジト目でそんなことを言ったのは、カツシロウ。7人の小人の中で、いちばんの狩りの名人だ。
「狩りの基本は、待つことなんだな。気配を消して、獲物が来るのをじっと待つ。追っかけるのは、確実に仕留められる距離に来てからでいいんだな」
「むー。待つのは性に合いませんわ」
「たとえ待たなくても、気配を消すのは大事なんだな。白雪っちの出す技は、だいたい構えから分かってしまうんだな。だから対策されてしまうんだな」
「そうでしたの?」
「ちょっと、組み手をしてみるんだな」
言われて白雪姫は、構えをとった。
だが、カツシロウは棒立ちだ。まるで散歩の途中に鳥の声を聞いて立ち止まったような、自然な体勢のままである。
(……あまりに隙だらけで、かえって怯んでしまいますわ)
が、睨めっこをしているわけではない。
姫は意を決して、右の直突きを出そうとした。足を踏み込み、腰に力をため、体重を移動させつつ、拳をしっかりと握って、腕を伸ば――したときに、カツシロウの手が、姫の拳を受け止めていた。
「う?!」
腕が伸びきる直前に止められたので、突きの威力はほとんど殺されてしまった。
「ほら。足を踏み込んだ時点で、右の突きが来るのがバレてるんだな」
「なんと……」
「気配を消せば、相手に攻撃を先読みされないんだな」
「どうすれば良いのですか、先輩!」
「教えてほしけりゃ、僕のことは先生と呼ぶんだな」
「先生!」
「ぐふっ。それじゃ、さっそく修行を始めるか」
そして。
半日後。
夕日に照らされて、くつろぐウサギの一家。ぬいぐるみのような子ウサギたちが、じゃれ合っている。
と。
母ウサギが跳ね上がった。
続けざまに子ウサギも。
刹那の後で、森に怪鳥のような叫び声が響き渡る。
「チェェェェストォォォォォォ!」
樹上から飛び降りてきた白雪姫の蹴りは、母ウサギをすんでの所で仕留め損ない、ウサギたちは茂みの中に消えていった。
「くぅぅぅぅ~!」
姫は悔しげに、地団駄踏んだ。
「何故ですの! しっかり修行をして、完璧に気配を消していましたのに!」
「あのさ……」
ジト目でそれを見ているのは、カツシロウ。
「いくら気配を消していても、攻撃するときに叫んでたら、タイミングがもろバレなんだな……」
「ハッ!」
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