不老不死を得たある男の一生

暗黒星の消滅・完全な無の始まり

不老不死から10の80乗年後

10の80乗とは、数字で表すと

100000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000

である。

このとき銀河系にあった星たちはどうなっているだろうか？

これは現代の宇宙科学に基づく予測であるが、すべての銀河系の星たちはブラックホールに飲み込まれた後、ブラックホールの「蒸発」によって何もなくなってしまうと考えられている。

正確には「素粒子」のような小さな状態になってしまうという話だが、およそのところ「無になってしまう」と考えても差し支えない。

それが起こるのが、10の80乗年後くらいだと考えられている。

男はこのときも宇宙空間をさまよっていた。

すでにブラックホールのほとんどが蒸発してしまい、宇宙空間にはほとんど何も物質が残っていなかった。

熱もほとんどなかった。何も見えず、何も聞こえない。

ちょうどわれわれが、窓のない密室で電気を消したときのような、完全に真っ暗な状態である。

男は何も感じなかった。何も見えず、何も聞こえず、何にも触れることがない。

男がちょうど不老不死になってから1億年のとき、地球から生物がすべて消えてしまったのだが、そのときから男は身動き一つしていない。

男は死んでいるかのようだった。ほんの少しも動かず、ほんの少しも何かを感じたり考えたりすることもなかった。