孤立の引換に得た安心

不老不死から30年後。

男、50歳。



男は、経歴をごまかしながら仕事を探す日々を送っていた。

肉体は歳を取らないので、年齢で肉体労働ができなくなるというような心配はないし、疲労で仕事が続かない、ということもない。

ただ、仕事がつまらなかった。それは苦痛だった。


男の人間関係といえば、やはり過去をごまかしながら行き当たりばったりの人間関係を楽しんでいた。

見た目は20歳であり、肉体も20歳である。


たまにこっそりと故郷を訪れることがあった。誰にも見つからないよう。

そこにはすっかり歳を取った友人たちがいて、男はそれを見てショックを受けた。

自分の顔を鏡で見て、自分だけ時間が止まっていた。

自分だけ、若く美しかった。友人たちは醜く老いていた。


友人たちはみな家族を持っており、子供の話で盛り上がっているようだった。それを男は遠くから見ていた。


ふと、友人たちが自分のことを話題にしているのが聞こえた。男はすでに死んだことになっていた。それを聞いて男は一層孤独感を感じるのだった。

両親の顔も見に行ったが、驚くほど老けてしまっており、同時に不安にもなった。


親ももうすぐ死ぬのだろうか?


ここにきて、男はようやく友人や家族たちに「死」が差し迫っていることを想像した。

彼らもいずれ死に、消えてしまうのだと。


しかし自分だけは死なない。死という「終わり」はやってこないのだ。


過去と縁が切れ、人間社会とうまくなじめていないのはつらかったが、やはり老いない、病気にならないということはすばらしいことだった。


友人たちの中には成人病にかかり、死ぬまで薬を飲み続けなければならない者もいた。

それを聞いて男はぞっとした。そんな不安とは無縁であることを、男は喜び誇りにさえ思った。


それでも両親が年老いていたのはかなりのショックだった。

両親の健康にも不安があったが、もう自分にはどうしようもないことだった。

家を捨て、親も捨ててしまったことに罪悪感はあったが、仕方のないことだとあきらめることにした。

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