下層の生活に甘んじる不老不死の男
不老不死の男は、待遇の悪い会社に勤めて働いていた。
不老不死から5年後。
男、25歳。
男は普通の会社員として働いていた。
ただ同じ大学の友人たちよりも労働の待遇の悪い会社だった。
それは単に、就職活動をさぼったからであった。もっと真剣にやっていれば、待遇のいい会社に入れていたかもしれなかった。
なぜ会社で働く道を選んだのか?
それは単に、何もしない人生があまりに退屈であるためだった。
別に働かなくても、極端な話が山奥でずっと野宿して過ごしても、死んだりしないし健康を損なうこともない。
男は一度、試しに山奥で野宿したことがあったのだが、山奥には何もないのである。楽しみが何もない。
夜になれば周囲は真っ暗で、ひどくさびしい。
これはあまりにも退屈、そして孤独であった。いやもうそれは、退屈を通り越して苦痛だった。
こうした苦痛を逃れて、ある程度楽しみのある人生をやるためには、普通の人たちと同じような人生設計をして過ごさなければならなかった。
食事はなくても平気だったが、少なくとも住居だけはまともなところがほしかったので、男はアパートに住むことになった。
アパートに住むには金がいる。
いくら不老不死といっても、身体・頭脳の能力は人並みであり、お金を得るためには働かなくてはならない。
働くのが嫌で、仮にお金を得るために強盗殺人をし、警察に銃で撃たれても、もちろん死ぬことはない。
しかしそれでも警察は彼を拘束するだろうし、牢獄に入れられれば出ることはできなくなる。
それで仕方なく、アパートの家賃を払うために働かざるをえないのだった。
大学3年生の時、男は就職活動に手を抜いていたが、このようなことがわかったために一応のところ、真面目に就職活動をするようになった。
それでも「最悪失敗しても未来に不安はない」という油断があったためか、面接などでも詰めが甘く、失敗続きであった。
結局入れた会社は待遇の悪い会社で、毎日つまらない仕事を、朝早くから夜遅くまでしなければならなかった。
その割には社会的地位も低く、給料も低かった。
不老不死を喜んでいたのも数年の話で、結局は普通の人たちと同じか、それ以下の人生をやらされていた。
男は、学生時代に自分が悟った哲学について、いくつか変更せざるを得なくなった。
不老不死になると、働かずに過ごすこともできる、病院に行くこともない、派遣切りにおびえることもない。
しかしそういった恐怖や不安がなくなる代わりに、人間らしい生活の楽しみもほとんどなくなってしまうことに気付いた。
人類の夢のような願いである不老不死を手に入れたというのに、人並みの生活を強いられているのは不快なことだった。男のプライドは傷つけられた。
男の生活は貧乏だった。お金がなくてつまらなかった。
楽しみといえば、たまに学生時代の友人と一緒に遊ぶことくらいだった。
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