諦めきれないバカの追求録《パルシィード》
霞空
汚れる前の三人と諦めた振りしたバカの馴れ初め
プロローグ。少女まみれの朝一番。
暖かな感触に包まれながら目を覚ますと、身体を
柔らかな手はシャツの下で這い回る様に腹や胸を撫で回し、くすぐったくも温かい感触を伝えてくる。
そして普段履いているズボンの感触はなく、太ももから登ってくるように別の手が腰へと伸びてくるのを感じる。
おかしいなぁ……。寝る前までちゃんと履いてたはずなのに。
断じて自分に露出狂の気があるわけではない。
これまで生きてきた十九年の人生で一度も寝ている間に服を脱いだ記憶はなく、つまりは寝ている間に誰かに脱がされたと見ていいだろう。
それが誰か? という事は考える必要もない。
何故なら寝ている自分の上にちょうど誰かが乗っている重さと両隣に人肌の温もりを、平たく言えば布団の中に自分以外の三人がいるからだ。
流石に目を閉じているとはいえ、身体のかかる重さと身動きが取れない程にくっつかれて気づかない訳がない。
三人共かぁ……。
頭が痛くなるような事実に音を立てぬよう小さく溜息を吐く。
同時に目を開けて視線を動かすと予想通り寝る前には無かったはずの三つの盛り上がりがあり、此方が起きたことに気づいたのか時折布団の中で
時計へと目を移すと時刻は六時十五分を指しており、そろそろ起きなければ仕事には間に合うが、朝食は抜きになってしまう時間だ。
それに太ももから登ってきていた手が本格的に腰まで届こうとしている。
いい加減身の危険を感じ始めたので、この状況を打開すべく呼吸を整えて力を入れ。
「おぉりゃぁぁぁぁっ!!」
身体のバネを使い勢い良く跳ね上げる。すると――
「きゃー!」
「キャー!」
「きゃぁ…」
喜色を含んだ声。
どこか白々しさが混じった声。
隠す気があるのか怪しい棒読み。
悲鳴と言うには余りにもお粗末なモノを上げながら、三人の少女達が宙を舞う。
そう、この三人が布団に隠れて自分に纏わり付いていた下手人である。
最近無かったから油断してたらこれだよ。
三人が布団に紛れ込んでくるのは何もこれが初めてではない。
最近まで割とよくある事だったのだが複雑な事情により急成長している三人の現状を踏まえ、そろそろ添い寝は社会的にも精神的にもマズイという結論に至り、辞めるようにお願いしたのだ。
しかし今の状況を見るに辞めてくれる気は全く無いように見える。
三人から開放された事で
ダブルサイズのベッドで上で三人が座り直し此方へ視線を向けて各々に口を開く。
「女の子をいきなり飛ばすなんて非常識ですね」
銀髪の少女がのたまい。
「反省はしますが後悔はしません」
茶髪の少女が反抗を認めた。
「せっかくのハーレムを台無しにするなんて、やっぱり不の――」
「言わせねーからなっ!?」
最後に口を開いた青髪の少女がとんでもない事を口走ろうとしたが、そうはさせない。
首根っこを引っ掴んで再び空の旅へと招待する。
今度こそちゃんとした悲鳴が耳に届くが、大して効いていないのは明白だ。
何故なら浮かび上がる直前、性懲りもなく自分のパンツへと手を伸ばしていたのを目にしたからだ。
もちろん教育上大変よろしくない光景を見せる訳にはいかない為、全力で避けたのは言うまでもない。
油断も隙もありゃしない。
それに俺は不能なのではない。
少女に欲情する趣味がないだけだ。
再びベッドへと戻ってきた青髪の少女に疲れたように溜息を吐き、ベッドから降りて少女達に視線を移して口を開く。
「
俺の言葉を聞き茶髪の少女が安堵の表情を見せる。
ただ添い寝をしていただけだ。
生い立ちから考えても仕方ないと割り切れるし、まだ許容範囲だ。
「だが
ニコニコと微笑みを浮かべる銀髪少女の犯行を咎める。
いくらなんでもシャツの下に手を忍ばせて弄るのはやり過ぎだ。
断じて俺にそういう趣味は無い。
「そして
そして一番危ない行動をしていた青髪の少女を叱る。
添い寝まではまだ許す。
三人の中で一番幼い見た目をしているのだから違和感も少なく、先程言った通り許容範囲内だ。
だがズボンを、あまつさえパンツまで脱がそうとしてくるのはダメだ。
ハーレムと口にしてはいたが、少女まみれ。
それも彼女達の事情も考えてみれば、それをハーレムと言うことなどできん。
人、それを保育園と呼ぶ。
「見た目的には可愛い女の子が抱き着いているだけですからセーフ、セーフ!!」
「そろそろフラグ的にも十八展開に突入してもいい頃だと思う。それよりもストリップはよはよっ!!」
こいつら……。
「燈火。炊飯器の予約がちゃんと付いてるか確認してきてくれないか?」
「はーい」
どこか逃げる様に元気のいい返事を残し、パタパタと茶髪のポニーテールを揺らしながら台所へと駆け出していった。
燈火の後ろ姿を見送り、未だ反省の色を見せない二人へと視線を向ける。
確か出会った当初に比べて発育は大分良くなっており、これまでの遅れを取り戻すかの様に急成長しているのが分かる。
まだ途上とはいえ、ささやかながらも膨らんできている胸や肌蹴たパジャマから晒している素肌、乱れた髪から覗く潤んだ瞳からは、まだあどけなさが同居していながらも確かな色気を感じさせる。
肌蹴ているのは明らかに故意であろうが、そういう趣向の紳士たちがお目にかかれば狂喜乱舞するほどに喜ぶのは間違いないだろう。
しかし残念でも無いことに、自分は少女に欲情する様な趣味は持ち合わせていない。
あの手この手で誘惑まがいの事をしてくるが、十八歳以下はNGなのだ。
裏で自分がどれだけ理性を保てるかという内容でトトカルチョしているのが原因だと思われるが、揺らぐことは無いと自分を信じたい。
「…………」
「…………」
未だ何かを求めるような、物欲しそうな視線を此方へと向けてくる二人。
このまま付き合っていては朝食抜きで仕事に向かわねばならなくなる。
どうしようかと悩み。
「さて、朝ごはん抜きと遠野式スパンキング、どっちがいい?」
出来る限りの笑顔を浮かべて語りかけると、なんだかんだ引き際をわきまえている二人は旗色が悪くなったことを自覚してわーきゃー騒ぎながら、燈火の後に続くように逃げ出していった。
しかし部屋を出る際に「犯されるー」だの「鬼畜イン○だー」など、明らかによろしくない単語を口走っていたのが耳に届いてしまう。
漸く静かになった室内で溜息を吐き、本格的にお仕置きの内容でも考えないといけないかなと、考えながら着替える事にする。
――――どうしてこうなったかなぁ……。
何か間違えたのだろうか。
三人の少女と出逢い、擦った揉んだを繰り返した末に今の関係に落ち着き三ヶ月が過ぎようとしていた。
その間にあそこまで汚れるような何かがあったのか、未だに謎である。
「三ヶ月かぁ……」
嵐の様に過ぎ去った少女達が居ない部屋で着替える中、彼女達過ごした時間を振り返って呟きが漏れる。
三ヶ月。
それが俺達が家族となってから今までの時間。
出会った当初から比べると随分と、いや、ありえないぐらいに遠慮というモノが無くなってしまった気がするが、それは一種の信頼と考えることができるだろう。
むしろそうであってくれ。
「どうしてこうなっちゃったかなぁ……」
最初は大人しくて理性的だったのに。
自分という保護者が気づかぬ所で汚れていく三人に頭を痛めている内に着替えが終わったので、朝食を摂るべく彼女達が待つ台所へと向かうのであった。
◆
朝からやたらと元気な三人に囲まれた朝食を素早く終え、未だおかずの取り合いの真っ只中の三人を尻目に身支度を整える。
カバンを手に持ちデバイスである時計を確認して玄関へと向かうと、先程まで騒ぎながらご飯を食べていた三人が見送りに来た。
先頭には寝起きにシャツの下を弄っていた少女、
約十五歳程の見た目、何時も通りの黒を基調としたゴスロリ服に身を包んでいる。
未だ残るあどけなさ、だからと言って幼いというわけでもない容姿。
綺麗な長い髪が光を受けて銀色に輝く様は、服装と相まってどこか幻想的な雰囲気を感じさせる。
しかし紅い瞳にはどこかイタズラめいたモノが含まれていた。
そしてその後ろにはトレードマークである茶髪のポニーテールを揺らしながら
おおよそ十四歳程に見受けられる姿と、歩く度に肩から覗くポニーテールの動きは、彼女が活発であることを教えてくれる。
縁に比べてほんの少しだけ幼い雰囲気を感じる取る事ができるが、年はそこまで変わらないはずだ。
年相応に活発そうな雰囲気が、落ち着いて見える縁と比べてそう見えるだけかもしれない。
同じく着替えを終えた事でカジュアルテイストのシャツとスカートへと姿が変わっていた。
最後にゆっくりとした足取り、少し離れて二人の後に続いている青髪の少女。
十三歳程という三人の中では最も幼い見た目のだが、やや短く揃えられた髪や物静かな雰囲気、空色のワンピースという組み合わせにより、更に幼い印象を与えている。
名を
麦わら帽子に本を持たせて木陰にでも座らせれば非常に絵になる様な清楚な見た目とは裏腹に、朝の件を見れば分かる通り下ネタだろうとなんだろうと平気な顔してぶっこんでくるある意味最も危険な人物だ。
そうしてやたらとカラフルな三人が玄関前に並び、各々に口を開いた。
「帰りに駅前の新しいケーキ屋さんでショートとモンブラン!」
「ソフ○ップで新作ソフトとラノベの新刊を――っ!」
「我が家にそんな余裕は無い!!」
縁と雫の要求を真っ向から拒否。
さわり心地の良い髪をワシャワシャと乱暴に撫でながら揺らしていく。
「ぎゃー」
「ぐわぁー」
一応気遣っているとはいえ、結構激しく揺らしているにも関わらず楽しそうな声が聞こえてくる。
「えっと、今日は特売で一人一パックの物があるんだ。だから、その……帰りに一緒にスーパー行って貰ってもいい……?」
「デートですか? デートですね。ちゃっかりしてますね。流石あざとーか汚い」
「しかも上目遣い。あざとい。流石燈火あざとい」
「――――っ!!」
「お前ら、正当性で言うなら圧倒的に負けてる事を自覚してるか?」
明らかに家計を考えた燈火の発言に茶々を入れる二人に顔を真っ赤にしながら二人に掴み掛かる燈火。
一応大黒柱である自分が口を挟むがなんのその。
ぐるぐると回るように取っ組み合いを始めた三人を眺めて静かに天を仰いだ。
どうしてこうなった。
何時迄も玄関前のキャットファイトを見ているわけにも行かず、苦笑いと共に騒ぐ三人を尻目に玄関を後にする。
「お前ら―、戸締まりだけはきっちりしとけよー」
「「「はーい」」」
綺麗に揃えて返ってきた返事に満足して扉を閉める。
扉が閉まる際、目にした光景はどこか楽しそうにキャットファイトを再開する三人の姿だった。
「どうしてこうなったかなぁ……」
原因がどこだったか。
それに原因がわかった所で今更戻るつもりもやり直すつもり無い。
だが、偶には思い返すのも悪くはないかもしれない。
バス停へと向かう中、過去に想いを馳せながら歩いて行く。
これは今より少し未来の話。
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