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艦橋では、ボルタ准将が苦りきった顔付きで、スクリーンに映し出された経緯を見守って、ぶつぶつと口の中で呟いている。
「糞! あやつら、何を考えておるのだ……。そやつらは敵だぞ! 浮かれおって……」
スクリーンでは、ドーデン軍、バートル軍の兵士たちが肩を組み、焚き火に顔を赤々と染め、陽気に馬鹿騒ぎを続けている。もはや両軍の兵士たちは、お互いを敵だという考えは、すっかり抜け落ちているようだ。
「これから先、どうなさる御つもりですかな」
准将は口調こそ丁寧であるが、じろりと険悪な視線で、司令長官席に座っている三村を振り返った。
三村はアラン王子として、首都の議会から全軍の司令長官に任命されていた。無論、名目だけであるが、それでも三村の承認がなければ、ボルタ准将は進軍の命令を正式に出せないのである。
「バートル国へ進撃しましょう」
三村の返事に、准将は全身で驚きを示した。弾けるように背を伸ばすと、表情が生き返ったごとく、赤らんだ。
「それでは、全軍を進めてよろしいので?」
三村は無言で頷く。
ぎらぎらと戦いの喜びに目を輝かせ、ボルタ准将は思い切り声を張り上げた。
「全軍、バートル国首都へ進軍せよ! 全速前進だ!」
途端に、わあっ、と艦橋が騒然となった。
送話器を引き寄せ、艦橋の要員がてきぱきと命令を伝達し、警戒警報が出される。どたばたと廊下を走る音がして、兵士が機関銃座に突進し、飛行甲板では、戦闘機が準備され、銃弾が装弾される。
空中空母は、完全に目覚めていた。
「おい、うまく行ったな!」
肘で突っつかれ、市川が振り返ると、山田がほくほくとした笑みを浮かべていた。市川は山田に向かって、大いに頷き返した。
「ああ! 殺戮は一切なしだ! しかし、トミーの色指定は、想像以上にひでえ!」
市川の言葉に、洋子が色めきたった。
「何よ! あんたらが、あのキャラクターは、とんでもなく悪趣味で行けって、指示したんじゃない! 文句ある?」
市川は慌てて手を振った。
「ないない! おれの言いたいのは、想像以上にぴったりだって誉めてるのさ!」
「ああら、そう!」
誉められても洋子はツンと顔を逸らし、腰に手をやって背を反らす。市川はそんな洋子の態度に、内心では舌打ちしたい気分だった。
どうも、エリカ姫との一件以来、洋子との仲は、ぎくしゃくしがちである。
まあ、いい……。
市川は強いて洋子への複雑な感情を抑えつける。とにかく、ストーリーは順調に進んでいる。これで「導師」との対決がうまく展開すれば、エンディングだ!
すでに「導師」のキャラクター・デザインは、済ませている。戦いのギミックも、山田と市川で設定している。木戸監督のOKサインもついて、あとは最終話に向けて、総てが動いている!
市川はスクリーンに映し出される、外部の光景に見入った。
真夜中の雲海が、スクリーン一杯に広がっている。空母は進軍を続けていた。
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