第47話 変態的正義
世界が混乱するとヤケクソになって変なヤツらが出て来る。
いつものように、リリィ・ロッドに連れて行かれた先には……。
異様な格好、と言ってもいいのだろうか。もはや『格好』とすら呼べない者達だったかもしれない。
そこには2人の男がいた。そして不用心にも1人で外に出ていた若い女性が、キャーと声を上げて助けを求めていた。言葉が乱れても叫び声に変化は無いらしかった。
この彼女がリリィ・ロッドを呼び寄せたのだろう、と思った。
2人の男はーーその内の1人は学ランに靴下。その他には何も身につけていない。つまり……フルチンだ。
そしてもう1人の男は、年末のこの寒い時季にブーメランパンツ一丁にスニーカーだった。
「%>〆◼️@j[]◀︎#♫!!」
「W& ̄$*▲●!!」
『ワシの名前はフルチン男爵!!』
『そして俺の名はブーメラン仮面!!』
この2人はそう言っているのであった。
おいリリィ・ロッド。病み上がりの俺に何させやがる。
ちなみに紗里子は別の事件現場へ行っていた。本当にこんなヤツらに会わせなくて良かった。
「おいお前ら、そのお嬢さんに悪戯でもしようとしてんのか?」
俺もヤケクソになって2人に聞いてみた。
例によってこの2人も、お嬢さんも、自分達と言葉が通じる事に驚き、感動していたようであった。
「貴女、私の言葉が解るの!?」
「これは驚いた。まさかワシの『意思』を継ぐ者が現れたとはな」
「ゴスロリもブーメランパンツもケッタイな格好という点では一緒だ。共にこの世界を救おうじゃないか」
「共にするか、馬鹿」
俺はさっさとこの2人の『虫』を吐き出させて次の現場に行こうと決めた。
「フォルスン アベルトロルテイル ベル・ゼブブ!」
俺はしばらく待ったが、ところがド変態2人には何事も起きない。変化があったのはーーお嬢さんの方だった。
スルリと『虫』を吐き出し、気絶したお嬢さんの胸元からは……。出刃庖丁が覗いていた。
「おい、この女の子は最初からコレを持っていたのか?」
俺はフルチン男爵の方に話しかけた。
フルチン男爵はコクリと頷いた。その格好からは想像も出来ない事だったが、男爵らしい気品は備えていた。
フルチン男爵は言った。
「ワシらがパトロールしている所を、この子が、失恋でもしたんだろうな、若い男を庖丁で刺そうと追いかけている所を、ブーメラン仮面と一緒に見つけたんだ」
「本当か? ブーメラン仮面」
俺はフルチン男爵の言葉を訳し、ブーメラン仮面の方にも聞いてみた。よく見ると仮面とか名乗りながら仮面はつけていなかった。
ブーメラン仮面は言う。
「俺達は、この混乱した世界から犯罪を撲滅させる為に日夜パトロールをしている。この格好なら変なのも近づかないし、この女の子も俺達にビックリして足を止めたからな」
「まあある意味誰も近づかないだろうな。でも『近づかない』からじゃなくて、お前ら世界が変になる前からこういう格好して往来を歩きたいと思ってたんじゃないのか。警察が機能仕切れてないのをいい事に」
フルチン男爵は首を振った。
「確かに、こういう格好をしてみたいという願望はあった」
やっぱりあったんじゃねえかよ。
「ワシの職業はまあ、ちょっと大きいくらいの会社社長をしている。世界がまともだった時は、社員の前ではこんな格好は許されなかった。世界がこんな風だから、たまには好きな格好で外を出てみたいと思ってな」
やっぱりやってみたいと思ってたんじゃねえかよ。
でもまあ、女の子の犯罪を食い止める事が出来たのは2人の変態のおかげだ。
「ちなみに、アンタらはどういう関係なんだ? 見た所随分年が離れているようだし、言語もお互い分からないだろうしどうやってコンビを組んだんだ」
フルチン男爵とブーメラン仮面は視線を合わせあい、頷いた。
「君、女の子らしくない喋り方をするな。まあいい、ワシらは親子だ。今政府が推奨している、手話と絵でコミュニケーションを取って2人正義の味方をやっている。ワシが引退したら、ブーメラン仮面は次期社長だ」
もう世界は駄目なのかもしれない。
色んな意味で。
しかしまあこいつらのやっている事は手段はどうあれ良い事だが、丸腰で正義の味方をやるのは余りに危険が多い。
誰も近付いてこないだろうけど。でも変態の上には変態がいるからな。
一応この2人にはこんな行為は二度としないよう呪文をかけた。
「 エコエコヒップノス エコエコノーザンス エコエコアウストロス エコエコノーストサスラ!」
俺の最新の呪文だ。
どうせルシフェルのヤツが仕組んでいたんだろうが。
「!?☆€%((▪️))!!」
「〆^\\▲k!!」
呪文は魔剣あらたかだった。
この会社社長の2人は急に自らの格好を恥じ、フルチン男爵は下半身を、ブーメラン仮面は上を隠してどこかに走り去ってしまった。
「おしりヒップに連絡をしなければ!!」
「マスター・ハレンチにもこの事を……!!」
等と叫びながら。
なんだその情けなく悲しい名前は。仲間がいるのかよ。変なのばっかりで自警団を作られてもな。
俺は、あわや殺人犯となる所だった女の子を自宅に送る事にした。
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