第23章 フォースネットワーク【3】
「……よし、保存完了。それじゃあ引き続き、駐屯地の見取り図を探してみるよ」
「ああ、よろしく頼むよ」
それからマンハットは再び、先程のようにキーボードとマウスを黙って操作し始める。
とりあえずこれで、ターゲットプラスアルファ関連の情報は手に入った。
あとは侵入ルートの情報さえ確保したらパーフェクトなのだが、しかしこの施設に忍び込んでから結構時間が経っている。いつここの警備が戻って来てもおかしくない状況であるため、僕は入口のドアに身を寄せ、僅かに扉を開いて外の様子を確認してみる。
すると外からは、様々な人の声や物音が、遠くから僅かながらに聞こえてくるが、しかし近場ではまったく物音もせず、人の気配も無いので、どうやらまだ、工事現場の事故処理は終わっていないようだ……しかしだからといって、安易に安心することはできないな。
そうやって静かに、僕が外の状況を探っていると、施設内の風景を見て回ることに飽きたのだろうか、ライフ・ゼロが僕の元へと歩み寄って来た。
「外の様子はどうだ? 大丈夫そうか?」
「まあ今のところは……だけど時間的に、見張りがいつ戻って来てもおかしくはない。そんなに長居はしない方が良さそうだ」
「そうか……ところでうぬは、我がどうしてこれだけ新しい物に興味があるのか、その理由を知りたくはないか?」
「えっ?」
イキナリ何を言い出すのかと思いきや、全然全く興味の無い話題をライフ・ゼロは僕に振ってきた。
しかし当の本人はすごく聞いて欲しそうな顔をしているので、ここで拒否して険悪な感じになるのも嫌だし、まあ暇潰し程度に聞いてみることにした。
「どういう理由なんだ?」
「キッキッ! いや実はな、まだ我が魔物共の頂点に立っておった頃、ある場所を攻め落とそうと、人間の街に向けて兵を送ったのだ。当時の我らは破竹の勢いで侵略を進めておったから、調子に乗った我も、多少その時は慢心をしておったのだ」
「ふうん……」
昔のライフ・ゼロの姿を見たことが無いから分からないが、しかし今のコイツは、間違い無く慢心の塊みたいなやつだと、僕は思ってるけれど……。
「誰が慢心の塊だ! 誰が!」
「うわっ! しーっ! 声が外に漏れちまうだろ!」
僕の考えてることを読み取って、ライフ・ゼロは大声を上げたのだが、しかしそれを透かさず、僕は右の人差し指を口元で立てて、制してみせた。
「む……ううう……」
すると、すぐに静かになったライフ・ゼロだったが、しかし腑に落ちないような表情をし、睨むように僕の顔を注視してきた。
「それで? 兵を送ってどうなったんだ?」
いつまでも恨めしい視線を浴び続けるのも気分が悪いので、僕はライフ・ゼロに、話の先を述べるよう促す。
まあ……途中まで話を聞いて、少し興味も出てきたし。
「フン……当時の我は勢いに身を任せ、特に策を打ち立てることも無く、魔物の中規模部隊を人間の住む街へと送ったのだ。その街はそんなに大きな都市でも無かったし、我らはむしろ、その先にある王国の中央都市を陥落することを目指していたから、そこは通過点の一つに過ぎなかったのだ」
「なるほど」
「しかし部隊を向かわせたその翌日、約五百ほど居たはずの魔物の部隊は、およそ数十人となって撤退してきたのだ。一体何が起こったのかと、その生き残った魔物に訊くと、魔物は、今までに見たことの無い兵器で一網打尽にされたと言ったのだ」
「見たことの無い兵器? でも数百年前の兵器っていったら、剣とか槍とか、あと銃器もあったかもしれないけど、その時の銃器といえば、
「うむ……当時の我もそう思っておった。しかしそうではなかったのだ。その街の住人は、全員ではないがルーナの持っている物と同じ、魔拳銃なるものを何丁か携えておったのだ」
「ルーナの……ハーミット・レッドか!?」
「そうだ。まあ、奴らが持っていたのはあんな赤くは無かったのだが……まあそれはいいとして、とにかく性能は同じだった。魔力を使い、巨大な爆発を起こす不思議な拳銃……それに魔物の部隊はやられてしまったのだ」
「そうか……そういえばルーナが最初、ハーミット・レッドのことを僕に教えてくれた時、それはオーパーツだって言ってたけど、本当にそうだったんだな……」
剣や槍、はたまたマスケット銃やラッパ銃が主流の時代に存在した
それは間違いなく、その時代にそぐわぬ物であり、オーパーツと言っても過言では無い代物だろう。
しかしオーパーツだと呼ばれる物の多くは、数多く残る物ではない。それこそ、その物が後世にまで膨大に残っていれば、それはその時代の既存技術ということになり、オーパーツだと呼ばれることは無くなってしまう。
魔拳銃が何故オーパーツと後世で呼ばれるようになったのか……それはもう、言わずとも明らかだろう。
「滅ぼした」
僕がその答えを出す前に、ライフ・ゼロがそう口に出してみせた。
まあ……そうだよな。そうならないと、歴史に残る産物となってしまうからな。
「その街を大部隊で一斉攻撃し、そこに住む人間を、男はおろか、女や子供、そして赤子まで、根こそぎ抹殺した……そしてその街で製造されておった、我らの脅威となった魔拳銃は、全て破棄したのだ」
「むごいことを……」
「脅威となる芽は全て摘み取る……それがその当時の、我のやり方だったからな。しかしどうやら、数点ほど魔拳銃は既に外部に流出しておったようで、ルーナの持っておるあの拳銃も、その流出した物の一つだろう。まさか数百年越しにその
ライフ・ゼロはそう言って、フンと鼻で笑ってみせた。
なるほど……つまりルーナの先祖は、その街がライフ・ゼロによって滅ぼされる以前に、魔拳銃であるハーミット・レッドを何らかの方法で手に入れ、そしてそれがずっと残り、数百年の時を経て、今ルーナが手にしているということか。
ルーナじゃないけど、歴史のロマンってやつを感じるな……。
「まあとにかく、それ以降人間の作った物は侮れんと関心が深まってな。それで今も我は、人間の作っている物に興味を持ち続けておるのだ」
「ふうん……なるほどね。痛い目を見た上での反省ってことだな」
「なんか引っかかる物言いだな、それ……」
「気にするな。反省できるだけ偉いってことだから」
「偉い……そうかそうか! 我は偉いか! キッキッキッ!!」
一時は険悪な顔つきをしてみせたライフ・ゼロだったが、しかしちょっと褒め言葉を付けてやると、すぐに上機嫌となり、いつもの癖のある笑い声を出してみせた。
今はこんな、少し褒めただけで喜ぶような、そんな単純な奴なのに、かつては冷酷無慈悲に一つの街を滅ぼし、そして世界を侵略したんだよなコイツ。
今のライフ・ゼロと昔のライフ・ゼロ……まるで別人だな。それはそれで、奴の本質が掴めなくて恐い気もするけど。
「これだ! コヨミ君、駐屯地の見取り図を見つけたよ!」
そんなライフ・ゼロの昔話を、敵地に侵入しているのにも関わらず、悠々と聞いていると、マンハットが突如、歓喜の声で僕にそう告げてきた。
「オッケー! じゃあそのデータをもらったら脱出しよう」
「分かった!」
返事をして、マンハットはデータを先程のように、レコードプレートに記録しているようだったのだが……。
「ういいいいい……疲れた疲れた……」
「まさかクレーンで上げてる鉄骨が落下するとはな……でも死傷者が出なかったのは幸いだったな」
外から二人の男の声が聞こえてきて、僕の背筋が瞬時に凍りつく。
おそらくそれは、隣に居たライフ・ゼロも同じだったようで、目ん玉を丸くして僕の方を見つめてきた。
「おいうぬ! これは……」
「ああ……マズいことになった……っ!」
どうやら工事現場の事故の処理が終わり、ここの見張りが帰ってきてしまったようだ。
このままではマズイ……ここに居た見張りの人数は二人だったので、戦って振り切ることもできなくはないが、しかし兵士が倒されたとなれば、その後、兵団は血眼になって犯人捜しを始めるだろう。
言わずもがな、警戒が強まることは確実……そうなってしまっては、その後に控えている留置場への潜入に、支障が出てしまう。
どうする……こんなところで足を取られるわけにはいかないのに……!
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