BACK TO THE OCEAN 間章6 デモクラシーの崩壊

間章6 デモクラシーの崩壊

 コツンコツン、キィ……バタン、ザッ!


「失礼します、大臣! あっ……今は州知事代理でしたでしょうか?」


「うむ、ウィーリアム君か。肩書などどうでもいいさ……それより、丁度君に知らせておきたかったことがある」


「ははっ、何でしょうか?」


「君のこれまでの貢献を評価し、この遠征の後、グリード首相に掛け合い、君をマグナブラ中枢管理委員会の副長官に任命したいと思っている」


「副長官……わたしがですか!?」


「フフ……君はよく働いてくれているし、それに頭も回る。昨日の演説だって、アクトポートスクエアで直接行うのは危険だと判断し、アクトポート庁舎から映像を送って演説をしようと提案したのは君だったじゃないか?」


「いえ……デモ隊の中には過激派もいたものですから。あの場に大臣を出すことは、わざわざ敵に大将の首を渡すも同じ……だからそう提案しただけです」


「それが結果的には功を奏したんだよ。あの後兵士が怪しい人間を捕縛し、そいつが担いでいたギターケースの中を調べたところ、中にはスナイパーライフルが隠されていたそうじゃないか」


「ええ、そう報告がありましたね」


「もしあの場にボクが立っていたら、今頃ボクは弾丸に頭をぶち抜かれて、あの世に逝っていたかもしれない……そういう意味では、ボクにとっては君は命の恩人だよ。感謝している」


「そんな、勿体無きお言葉……結果的にそうなっただけですから」


「フフ……まあそう遠慮をしないでくれ。それに副長官になった方が、君も今後色々と動きやすくなるはずだ。一つのツールとして、肩書を利用してくれ」


「ははっ! 了解しました」


「うむ……さて、君からの報告は?」


「先程ですが、過激派指定されていた最後のデモ部隊の人員を一斉逮捕致しました。これでおそらく、マグナブラ及び州政府に反発する保守派は居なくなったかと」


「そうか。兵士達にはご苦労だったと伝えておいてくれ」


「ははっ、了解致しました。それともう一つ報告が……」


「ん? なんだい?」


「アクトポート復興措置法の補助金を受けたいという企業の申請が、五十社を超えたようです」


「昨日発表したばかりだというのに、もう五十か……フフ、まだ法案は施行されていないのに、商人はカネのことになると抜け目が無いな……」


「どう対処いたしましょうか?」


「施行時期はもう決まっているから、これを変動することはできない。だがこれだけの会社を調査するとなると、施行されてからでは遅くなってしまうだろう。役人には、これから順次調査を開始するよう伝えておいてくれ。その中から選ぶのは、十社だけだということもな」


「分かりました」


「しかし……フフ……まさかここまで上手く、たった一回の演説でイデオロギーを覆すことができるとは、さすがのボクも予想していなかったよ」


「そうですね。これでアクトポートの民主主義デモクラシーは崩壊したも同然でしょう」


「民主主義から権威主義へ……しかしここは長くデモクラシーを貫いてきた場所だ。その残骸はいつまでも残り続けるだろうし、それにそれらの後始末をするほど、ボクには時間が無い。本業であるマグナブラの大臣職があるわけだしね」


「そうですね……州知事の選出も急がせましょう」


「うむ、頼むよ」


「ははっ!」


 ザッ!


「じゃあ、ボクからは以上だが、君は?」


「わたしも報告は以上であります!」


「そうか。では今伝えたこと、よろしく頼むよ」


「はっ! では失礼いたします!」


 ザッ! コツンコツン、ギイ……バタン。


「さてと……ボクも山積みになった仕事に取り掛からねば。まずはそうだな……チャールズ・レイカーの処理についてからか……」


 ジリリリン! ジリリリン!


「ん? 電話か?」


 ガチャ。


「もしもし……ああ、あなたでしたか。そうですか、無事マグナブラに到着しましたか。すいません、ボクは今アクトポートに出張中でして、お出迎えができず……いえ、国際的なことではなく、国内情勢のことで……フフ、ありがとうございます……ええ……ええ……はい、グリード首相にはボクからの紹介でと伝えていただければ……ええ……例の物の設計図は兵器開発局に……ええ……フフ……その設計図はこちらの切り札ですからね。アズール・マンハットからは奪い取っておきました……ええそうです、その改良をあなたにはしてもらいたいかと……はい分かりました。ではボクがマグナブラに帰国したら、その際に……はい、それでは」


 ガチャン。


「そうか、到着したか……フフ、これで軍事面の心配はしなくても良さそうだな。あとは経済面だが、このアクトポートの処理が終われば、それも心配無くなるだろう。これで、マグナブラが一大大国になる日までぐっと近づいたわけだが……だけどそれはゴールではなく、むしろスタートでしかない」


 すっ……ずずっ……カチャン。


「……ボクの目指すゴールは、まだまだ先……か」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る