第13章 荒野の決戦【8】
「どうしたのよ!? 射撃したと思ったら弾丸は消えちゃうし、それで今度は剣を取り出したりなんかして?!」
ルーナは目まぐるしく変わる戦況に、少々混乱しているようだった。モチロン僕だって、頭がもうパンパンだ。
だから僕はとりあえず落ち着いて、そしてルーナの困惑を少しでも静めるために、今の状況をキチンと整理することにした。
「ルーナ落ち着いて。どうやらブラースティは魔防壁という、向かってくる物を消滅させる魔力の膜を張っているらしい。もしこのまま突っ込めば、僕達は魔防壁に消滅させられてしまう」
「ええっ!? じゃあどうやって……」
「大丈夫、突破する方法はある。魔防壁は魔力で作られた膜だから、この剣を使って破ることができるらしい。ただその代わり、魔防壁はすぐ修復されるから、突破した直後にヤツの懐に入る必要がある」
「なるほどね……つまり突っ込むと同時に、あの化物の体に乗っかれってことね」
「そうだ……できるか?」
「フン……だからさっきから言ってるでしょ? できるかどうかじゃなくて、やるしかないって!」
「そうか……分かった!」
心配なんて余計なお世話だったか……そもそもこの場面で、諦める方がちゃんちゃらオカシイ。
僕達に断念という選択肢はもう無い。やれるところまで、ただひたすら直進するだけさ。
「その魔なんとかを突破したら、あの化物の背中に一気に飛び込むわよ!」
「魔なんとかって……魔防壁だよ。てか、飛び込むってどうやって……」
「決まってるじゃない、この前みたいにバイクごと飛ぶのよ!」
「この前……げえっ!? またやるのかあれをっ!!」
「当たり前でしょ! ああしないとあれの体には乗っかれないでしょ!」
「ひえええ……」
この前のというと、まだあの爆心地にユスティーツフォートという大規模の砦が存在していた時、僕達が地下牢から脱出し、バイクで逃走を計った際、唯一の逃げ道だった大穴が高い場所にあったため、そこへ飛び込むために、ルーナはバイクの車体ごとジャンプさせたのだ。
あの時は着地地点が固定されていたからまだ良かったものの、今回はそうはいかない。
ブラースティはマジスターを追いかけて常に動き回っている。着地地点は絶えず移動しているため、もし飛行距離を誤ればそれこそ地面に落下、激突、大事故は免れず作戦は失敗する。
難易度も比でなければ、その分怖れも増量するものだ。
「時間が無いわ、わたしのバイクテクを信じて、アンタはその魔なんとかを壊せるようしっかり剣を突きたててなさい!」
「くっ……! なるようになれ!!」
僕は腹を切る覚悟を固め、しっかりと前方へ剣先を向ける。
「突っ込むわよっ!!」
ルーナがアクセルを回すと、エンジンが轟音を立てて鳴り、更にバイクは加速する。
ブラースティとの距離は着実に縮まり、そしてある地点まで接近した時、急に右手に強い違和感を覚えるようになった。
「きたっ! 魔防壁だっ!」
目には見えないが確かに感じる……剣の切っ先が魔防壁に突き刺さったのを。
防壁というのだから、掛かる力といえば普通、跳ね返る力だったり押される力という、抵抗力が主流だろう。
しかしこの魔防壁は違う。むしろ積極的に引き込まれるような、そんな感覚を剣から伝って感じる。
なるほど……この魔防壁には触れた物体を引きこむ力もあるのか。引き込み、そして消滅させる。
まるでそう、食虫植物のようなものだ。
捕らえた獲物を粘液で身動きをとれなくし、じっくりと消化液を使って溶かしていくように、この魔防壁も触れた獲物を逃がさないよう引き込み、そして確実に、着実に、その獲物を消滅させる。
もし僕達に太陽の剣が無かったら勝ち目は無かったな……本当に。
(ライフ・ゼロ、いけるか!?)
僕は意識を通じてライフ・ゼロに問い掛ける。
『キッキッ、我を侮るでないわ。これくらい片手一本いや、指一本で消せれるわっ!』
その言葉通り、刹那、右手の違和感が完全に消え、そしてバイクは更に、眼前の距離までブラースティに接近することができた。
有言実行。ライフ・ゼロが魔防壁を破ったのだ。
さすがは魔王の力だ。頼りになる!
「くっ……!」
だがここで、ルーナが苦戦しているような声を出す。
「どうした?」
「バイクを飛ばすための岩が無い! これじゃあバイクを空中に飛ばせないわっ!」
「なにいいいいいいっ!?」
そう、バイクは自分で車体を浮かすことはできない。車体を空中に投げ出すには、ジャンプ台のような物が必須になる。
しかし今走っている道には、そのようなジャンプ台になりそうな岩が見当たらないのだ。
クソッ! 一難去ってまた一難かよっ!
「どうする!? 早くしないとまた魔防壁が復活してしまう!」
「言われなくたって分かってるわよ! ……あっ!」
「どうした?!」
「あった! あれならいける!」
その時、ルーナが見つけた。目先にジャンプ台になりそうな岩を。
しかしその岩にはまた一つ難点があったのだ……それは。
「でもルーナ、あれだったらブラースティから逸れちゃわないか!?」
そう、その岩は僕から見ると右側の約十メートル先に存在していた。
もしこのままあの岩を使って真っ直ぐ飛んだとしても、ブラースティの体に乗っかることは方向的に不可能だ。
「フン、そんなのわたしにだって分かってるわよ」
「だったら……」
「大丈夫、策があるわ!」
「策……」
いつも行き当たりばったりのルーナから、策なんて言葉が出るなんて……嫌な予感しかしねぇ……。
「アクセルぜんかあああああああああああいっ!!」
「どわあああああああああああああああああああああああっ!!」
しかし僕がとやかく言ったところで、バイクのハンドルを握っているのはルーナだ。僕にそれを止める術など無い。
ルーナは右側にバイクを方向転換させ、バイクを最高速度に達させ、勢いをつける。
ジャンプ台となる岩にどんどん近づいていき、そしてルーナはその岩を右斜めから左方向に入る形で踏み込ませ、そしてバイクの車体は空に投げ出された。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
前回同様、その恐怖で大声を出してしまう僕。
「ヒャッホオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッウ!!」
そしてこんな状況なのに楽しんでいるルーナ……おかしいだろ、感覚が。
まあそれはとにかくとして……バイクは見事空中に飛び出したわけだが、しかし真っ直ぐ飛んではいなかった。
ルーナがジャンプ台となる岩を右斜めから入ったことにより、バイクは左側へ対角線上に飛んでいたのだ。
これならブラースティの方向へバイクは着実に飛び込める……のだが、しかしルーナの策に嫌な予感を感じた僕の勘は、図らずしも、願わくも、最悪の形で当たってしまったのだ。
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