第13章 荒野の決戦【4】

 ハーミット・レッドの引き金トリガーを引くと、倒れていた撃鉄ハンマーがトリガーの動きと連動して起き上がり、そして再びハンマーが倒れ、薬莢の底を叩いて弾丸が勢いよく、狙った岩を目指して飛び出した。


 しかしそのまま岩に着弾させるだけでは、あの岩を崩すことができない。だから僕はトリガーを引く時、同時にマテリアルガントレットを使って、ハーミット・レッドに魔力を送り込んだのだ。


 ハーミット・レッドの効果には、魔力を弾丸に込めることによって大爆発を起こすことができるというものがある。


 マテリアルガントレットの魔石からは、強力な魔力を流し込めることができ、その上その武器の攻撃力を最大限にまで引きだす、土属性の魔石の欠片の魔力を流し込んだということは……。


「うわっ!!」


 弾丸は白い光を放つと同時に爆発……いや、大爆発を起こし、周囲一帯の岩が全てその爆発に包まれてしまった。


 もはやこれは、拳銃の威力を大幅に上回ってしまってるな。さすがはオーパーツだ。


 爆発の煙が晴れてくると、邪魔になっていた岩々は見事全て粉々になり、辺りには小さな欠片だけが散乱しているだけだった。


 これならば邪魔な岩石を避けることなく、スピードを上げた状態で一気にこの岩場を抜けられそうだ!


「ルーナ、邪魔な岩は僕が全部破壊する。だから構わずバイクのスピードを上げてくれ」


「でもスピードを上げると、その分狙いにくくなるわよ?」


「大丈夫……君から教わった射撃スキルだ。外さない」


「……ふん、いいわ信じてあげる。そのかわり外したら、一発で破門だからね」


「厳しいな……でも頑張るよ」


「じゃあ……行くわよっ!!」


 合図と共に、ルーナはバイクのアクセルをフルスロットルに入れ、エンジンを鳴らして速度を上げる。


 僕は強風を浴びながらも、邪魔になる岩を狙撃するため、ハーミット・レッドのサイトを覗くことに集中する。


 回転弾倉シリンダーには残り五発の弾丸がセットされてある。撃っていて弾丸が足りなくなったら、再装填リロードすることもできないことではないが、しかしこのスピードの中で行うのは非常に困難だ。 


 だからリロードをできるだけ避けるべく、ただがむしゃらに撃つのではなく、一発の弾丸で複数の岩を潰せるポイントを狙撃していきたい。


 といっても、僕もまだ本格的に射撃を始めてまだ四日しか経っていない……そんな上級者向けのような真似が果たしてできるだろうか?


 ……いや、やるしかないか。ルーナに外さないって約束しちゃったんだし……こうなったら、自分の中の才能とやらを信じるしかない!


「……そこだっ!」


 目の前に五つ並んでいる岩があったので、真ん中の岩を僕は狙撃する。


 すると弾丸は爆発し、その爆発は狙った岩とその周辺の岩をも巻き込み、五つの岩は音を成して全て崩落した。


「ふふん、やるじゃない」


「まあな」


 その後も次々と、僕はハーミット・レッドを使って、行く手を妨げている邪魔な岩石を潰していき、ルーナもバイクのスピードを最高速度の状態に保ち、ブラースティとの距離も離したまま、ついに目的地である、あの荒野の戦場が目視できるところにまで辿り着いた。


「岩も無くなってきたし、このまま突っ走れば大丈夫そうね!」


「ああ……ん?」 


 ルーナがバイクを好調に運転している中、それは僕がサイドミラー越しに、ブラースティとの距離を確かめようとした時に気づいた。


 サイドミラーには今までよりも小さくブラースティの姿が映っており、それを見て僕は違和感を覚え、思い切って後方に振り返って確認すると、やはりその違和感はただの違和感でないことに気がついたのだ。


「ルーナ! ちょっとストップ!」


「えっ!? ちょっと急になに言ってるのよ!」


「ブラースティが僕達を追いかけるのを諦めたみたいだ! このままじゃ目的地まで誘導できない!」


「ええええええええっ!!」


 ルーナは驚愕の声をあげ、僕の指示通りアクセルを緩めて、どんどんスピードを落としていき、それからブレーキを掛け、バイクの速度を完全に殺しきった。


 停車後、背後を振り返ると、ブラースティは止まって追いかけるのを諦めるどころか、あろうことか爆心地の方へと振り返り、戻り始めていた。


 クソッ! もう目的地はすぐ目の前なのに……やはり早々、上手く事を運ぶことはできないか!


「コヨミ、ルーナどうした!」


 すると並走していたマジスターが、僕達が停車した場所よりも少し先でバイクを停車させ、声を掛けてきた。


「マジスター、ブラースティが後退していってる。これじゃあおびき出せそうにない」


「なにっ! くうう……まさか諦めるとは……それとも、わしらを追い払ったとヤツは思っているのか……どちらにしろこのままでは、計画通りヤツをおびき寄せることができない!」


「こうなったらここで決着を着けるか?」


「うむむ……」


 マジスターが頭を抱えていると、その後ろに座っていたライフ・ゼロが突如、いつものように笑い始めた。


「キッキッキッ……ヤルなら今の内が良いだろうな」


「む……何故そう思う」


 マジスターはライフ・ゼロに問い返す。


「暴走した状態の魔物なら、諦めるなどといった冷静な判断は取りきらん。目についた敵は殲滅するまで追ってくる」


「つまりまだ、ブラースティは暴走状態になっておらんということか?」


「そうだ。そしてあの状態ならまだ、ヤツを殺さずとも正気のまま返すことができるだろう。我の力とコヨミの持っておる剣があればな」


「太陽の剣が? でもどうやって……」


「フンッ」


 ライフ・ゼロは被っていたヘルメットを脱ぎ、放り投げると、バイクから飛び降りて僕の元へと歩み寄って来た。


「うぬらが言う太陽の剣とは、ワーハイト・ルージがそう呼び出しただけであり、本来これは名も無いただの剣なのだ。我を封印する能力だけを持った、空白の剣……しかしこの中に我が宿ったことにより、我の能力をこの剣を通して使えることができるのだ」


「お前の能力?」


 僕が尋ねると、ライフ・ゼロは怪しく笑みを浮かべ、続けた。


「キッキッキッ、我が生きとし生けるもの共に怖れられる所以が、その能力だ。我には生物の生体エネルギーを吸いだす能力がある。人間どもは我のこの能力を見て、ライフドレインと言っていたな」


「ライフドレイン……この剣を使って、ブラースティの生体エネルギーを吸い出すってことか」


「キッキッ、そうだ。魔物の生体エネルギーはすなわち魔力。魔力をある程度吸い上げることによって、ヤツの暴走を食い止められるということだ」


「殺すことなくか?」


「そうだな」


「フッ……フフッ」


「何がおかしい?」


 僕が笑うと、ライフ・ゼロはしかめっ面をして僕に問うてきた。

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