第12章 破皇の再臨【11】

「ああ、討伐しよう。ちょうど僕も、やっと扱いなれてる武器を手に入れたんだ。しかも伝説の剣……試し切りには丁度良い相手だ」


 僕は太陽の剣を左腰に下げ、右手でグリップを握り、鞘から引き抜く。


 鞘から出てきた白銀の刃には一点の曇りも無く、太陽からの光を受けて、それを照らし返すほど磨きがかかっている。


 これほどに美しい刃を持った剣を、僕は他に見たことが無い。これなら暴走した魔物だろうが何だろうが、一刀両断できる気がする。


「よし……魔物の元へ向かうぞ!」


 まずは先頭を切って、マジスターが向かう。


 僕もその後を追おうとしたのだが、しかし一人だけ走ろうとせず、その場に立ち止まっている者がいた。


「ルーナ、どうしたんだ?」


 そう、ルーナはその場に立ち止まり、なんだか困惑したような表情を浮かべていたのだ。


 いつもならこういうことが起こった時、正面切って真っ先に飛び込むはずなのに、一体どうしたのだろうか?


「いや……ちょっと考えごとをしてて。でもアンタがそれでいいのなら、わたしがどう考えていようとも意味が無いわよね」


「う~ん……そんな感じで言われると余計気になるな……」


「……だってアンタ、そのマグナブラって国でやってない罪を被せられて、指名手配にされちゃってるんでしょ? そんな国なら見捨てたって、別に構わないんじゃないのかなって思っちゃって……」


「……なるほど」


 確かに僕はあの国に、散々苦渋を飲まされ続けてきた。


 勇者になる夢を諦めさせられ、やってもない王の殺害の罪を被せられ、指名手配をされ国を追われ、そして唯一心を開いていた後輩も、あの国のメンツを保つために死んでいった。


 なにもかも、あの国が発端で起こったことだ。こんな理不尽な目にあわされて、僕はそろそろあの国を本気で恨むべきなのかもしれない。


 だけど、それでもあの国が魔物の襲撃を受けないためにも、僕はこれから魔物を討伐する。そのわけは……。


「ルーナ、僕はあの国のために魔物を狩るんじゃない。僕はあの国にいる、何の罪も無い人達に危害が及ばないようにするために、魔物を狩るんだ。多分、マジスターも同じ考えだと思うよ」


 僕にはもう、あの国を守る意思など毛頭無い。滅ぶも廃れるも勝手にしてくれと、それほどまでにあの国に対しての僕の気持ちというのは、薄情になりつつある。


 だけどそこにいる人達には、何の罪も無い。そんな人達が次々に死んでゆく様を悠々と、蚊帳の外から眺めるほど、僕は悪趣味でも無いからな。


 半分はそういった人達のために戦うという意味もあるが、半分は僕の中の、僕のメンツを保つためっていうのもあるのかな……まあ兎にも角にも、これは僕の意思で戦うということに変わりないから、理由なんてどうだっていいんだけれど。


「何の罪も無い人達のために……そう……ふふっ」


 すると今まで苦悶の表情をしていたルーナが、ほのかに笑みを浮かべた。


「なんだよ突然笑って……」


「いや……ただ少しだけ、アンタのことを見直しただけよ」


「なんだよ、少しかよ……」


「ふんっ! もっと見直して欲しいのなら、魔物を倒す時しっかり活躍しなさいっ!」


「それはなんだ、足手まといになるなよってことか」


「そういうこと!」


 そう言ってルーナはウインクをすると、マジスターの後を追うようにして走り出し、僕より先に行ってしまった。


 なんなんだよアイツ……急に元気になって、僕を挑発するようなこと言って……。


 だけどまあ……こっちの方がやっぱり彼女らしいな。


「キッキッ……ルーナが元気になってよかったな?」


 僕の隣で楽しそうに子供っぽく笑うライフ・ゼロ。


「フン……まあな」


「自分に素直にならねば、相手に気持ちは届かんよ?」


「ん? どういうことだ?」


「さあな、自分で考えよ。では行くぞ」


「……? ああ、行こうか」


 ライフ・ゼロが何のことを言いたかったのかは分からないけれど、とりあえず、今は暴走する魔物をここで食い止めねばならない。


 マグナブラ……あの国で僕は、恩も不条理も、その全てを教えられ、経験した。


 だからそんな、酸いも甘いも味わったこの国に感謝を込めて……そしてこれを手切れ金に、最後の最後に僕は暴走する魔物から、マグナブラを守ってみせる。


 誰から感謝されることも無い、これは自己満足のための戦いだ。

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