第3章 最新兵器【4】

「先輩、お疲れ様です!」


 訓練の後、ジョンが僕の元にやって来た。


 ちなみにコイツは他の兵士達と共に、射撃の訓練を行っていた。


「おう、お疲れ」


「……ふふっ、初めてっす。先輩がこんなに額に汗してる姿を見たのは」


「ああ?そうだっけ?」


「ええ……だって自分がこの兵団に入った頃にはもう、先輩は今のように、いや、今よりも絶望に打ちひしがれて、今にも壊れそうな、今にも死んでしまいそうなほどに落ち込んでいましたからね」


「…………そうだっけかな」


 一年前の僕は、ジョンの言う通り絶望に打ちひしがれていた。


 自分の最大目標を失い、自分の生きる道を見失い、僕の全てを失っていたあの頃。


 もしこの眼鏡を掛けた、口のうるさい後輩に背中を押されなければ、僕は今頃兵士を辞め、何処か知らぬ土地を彷徨い、そしていずれは……くたばっていたに違いない。


 今僕がここに居られるのは、こいつのお蔭だと言っても過言ではない。


 ただ、もうちょっとその口うるさいのをどうにかしてくれるとベストなんだけどな。


「なにか言ったっすか先輩?」


「いや……なにも」


「そうっすか。それで先輩、午後からはパトロールっすから、今からお昼なんてどうっすか?」


「お昼はいいけど、パトロールは嫌だな……」


「なに言ってるんっすか先輩! 兵士としてメインはそっちでしょ! それに、どうせパトロール中でも先輩はサボるんでしょ?」


「おっよく分かってるじゃないか。さすがは僕の後輩だ」


「褒められてもぜんっぜん嬉しくないっすううううううう!!」


 まったく……テンションの高い後輩だ。


 僕は久々に体を思いっきり動かしたら、疲れているというのにさ。


「……そういえば先輩、怒ったついでに自分、先輩に何か言っておくことがなかったっすかね?」


「えっ? 僕に? さあ?」


 もしかしたら、朝のことだろうな。


 しかしこれ以上説教が続いたら、それこそ昼飯を食べる時間すら無くなってしまう。


 それに……なんといっても面倒臭いしな。


「ほらジョンさっさと行くぞ。僕は腹が減って仕方がないんだ」


「う~ん……なんか忘れてる気がするんっすけど……まあいいや、自分も空腹っすから行きましょうか」


 僕は鋼の剣を鞘に収める。

 

 そういえば、この剣も教官から手渡されてから返していないのだが……まあいいか、返却するように言われてないし、言ってもこないし、このまま持って帰っちゃっても。


 剣なんてもう、僕以外誰も使わないだろうし。


 それから僕とジョンは訓練所を出て、昼食を食べるためにバスへ乗車し、そのまま市街地まで出向いた。

 

 新たな装備を手に入れ、なによりも今まで失っていた剣を手に入れ、僕もどことなしか、後輩に昼食を奢ってしまうほどにテンションは上がっていた。


 これからは兵士として、まあほどほどには頑張っていこうと、この時の僕はそんなことを思うほどに、気持ちが満たされていたのだ。


 しかし……これは僕の現実の話であり、現実とは、決して人を甘やかしてはくれないし、優しくはしてくれない。


 そのことに気づかされたのは、その日の晩、市街地のパトロールが終わってから、僕が兵士寮の自分の部屋に帰ろうとした、まさにその時だった。


 僕はこのことをキッカケに、この世界で起きている現実の話を知ってしまう。


 知らなければ幸せだったのかもしれないと、本気で思ってしまうほどの現実を、僕は知ってしまったのだ。

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