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第565話 アマルの旅路は佳境を迎える。

プオリジア歴4642年。



 天井の染みをエルシェンバラの星々に喩えて眺める。

 生まれて此の方星なんぞ一度も見たことはないが、その空白は妄想で補おう。

 さてと私は考える。いつまでこんな独房に閉じ込められている気だ。アマルガルド【掻き切る魔碗】の調子は良好。拘束されてはいるがこんなもの本気を出せばどうにでもなる。

 狼狽える事はしない。私はこれまでにも幾度となく修羅場をくぐり抜けてきた。何百日と旅をして、吸血鬼を葬った事や、ならず者をまとめて蹴散らしたことだってあった。

 そしてここは旅の終着点。亡き母から伝説を聞き、今日まで探し求めてきた時器がこの要塞にはある。


 私は仰向けに寝そべり、天井に挙げた足の爪を眺めながら今後の作戦を考える。幸いにも、この要塞を支配する白い連中は私を甘く見すぎている。何かをきっかけにここを一旦抜け出して時器のありかを突き止めさえすれば、あとはこちらのものだ。

「ふにゅ。」

 小奇麗な寝具の隙間から丸いきうきうが顔を出す。私はきうきうをつまみ上げると、寝そべったままそれを足の裏に乗せてポンポンと器用に転がしてみせる。きうきうは丸められるのが大好きな小動物だ。旅立つ前に非常食のつもりで連れてきたが、結局食べるには至らなかった。


「出ろ。」

 白服が私を呼ぶ。三人だ。後ろの二人は銃を構えている。始末するのは容易だが、今はしない。

「私をどこへ連れていくのですか。」

 きうきうを片腕に抱えたまま、三人に連行される。どんどん地下へと進み、真っ赤な海面よりも深い階層に到達するが、質問には答えてくれない。無口な連中だ。

 地下深くの巨大な丸い扉が大げさな音を立てて開き、私はその中に案内される。部屋は円形で天井が高く、中央には巨大な白い柱。そして辺りには面白そうなコンピュータが所狭しと並べられている。当然白服たちも無駄に沢山群れている。

「ここはどこですか。」

 質問は当然のようにスルーされる。以前、お気に入りの服から今着ている白い服に着替えるよう言われた時も、結局理由を教えてはくれなかった。彼らは白色に只ならぬこだわりでもあるのだろうか。


「ほぉ~よく来たのう。おぬしが…アレか?例の区画に侵入したという……。」

 白服の一人。博士と呼ばれる老人が私に声を掛ける。鼻掛け眼鏡をかけた鼻の大きい老人だ。とても特徴的な姿をしていたので、私はこの白服の姿を一生忘れないだろう。

「はい。アマルです。」

 私は名乗った。出し惜しむ理由は無い。親から受け継いだ立派な名前だ。

「アマル…ふむふむ……。おぬしの……例の検査の結果はこちらにも届いておる。うむ。数値を見た限りでは問題ないじゃろう。」

「私をどうするつもりですか。」

 私は質問をする。この博士ならちゃんと答えてくれるだろうと思い、素直に質問をする。すると博士はこう答える。

「ふぉっふぉっふぉ。心配する事はない。……与えるだけじゃよ。おぬしに。」

「……おぬしの望んだ時器の力をのう。」


 中央の柱が音を立ててせり上がると、透明な枠に封じ込まれた状態の黒い破片が姿を現す。枠の真下には無数のパイプに繋がれた豪華な椅子が置かれており、私はきうきうを取り上げられてそこに座らせられた。

 望んだ力が手に入るなんて、願ってもない幸運だ。

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