第四十五話
ひとしきり笑った凌馬たち三人。
「まあ、冗談あはここまでにして真面目な話をしましょうか。」
エイリーナは、そう言うとナディに確認をする。
「ナディ、あなたはこれから凌馬さんやミウちゃんたちとともに旅をしていくつもりなのね?」
「はい、姉さん。私は、自分の意思で凌馬さんたちに付いていくと決めました。決して強制や流されての決断ではありません。」
ナディはそうエイリーナに答えると、さっきの凌馬の発言を否定するように凌馬に話し掛ける。
「凌馬さん。確かにあなたが示してくれた道を私は選択しました。でも、私は嬉しかったんです。私のために全てを失う危険もあったのに、私を助けてくれた凌馬さんやミウちゃんが一緒に居たいと言ってくれたことが。例えこれから先、どんな道があろうとも二人と離れる選択だけはしたくありません。これが私の本心です。だから、凌馬さんが私に罪悪感を感じる必要はありません。」
ナディは凌馬を見つめてそう告げる。
「ナディ───。」
凌馬は、少しだけ心が軽くなった気がした。
「それに、私の気持ちは・・・・・・。」
ナディは凌馬に体がくっつくほど近付くと、頬を染めて凌馬を見上げるようにして目を閉じていた。
(えっ! これって・・・・・・。まさか、しても良いのか。これはそういうことなのか? なにかの勘違いとかないよな!)
凌馬はナディの行動に激しく動揺していた。
《いや、もうそれしかないだろうが。さっさとしろよ。》
何処かの突っ込みが聞こえたわけでもないだろうが、凌馬の顔がナディに近づいていき────。
「パパ、お姉ちゃん、どうしたの?」
突然のミウの言葉に、二人は硬直してしまった。
「あっ、いや、ミウ。これはな・・・、そう! ナディの目にゴミが入っちゃってな!」
「そうなのミウちゃん。それでパパに取って貰っていたの。」
二人は必死に誤魔化すと、ゴミを取る振りをしていた。
「お姉ちゃん大丈夫?」
「うん、もう平気だよ。ありがとう凌馬さん。ミウちゃんもありがとうね。」
ナディに頭を撫でられて、「えへへ。」と笑っているミウ。
「はぁー、これは先が思いやられるわね。それにしても、ナディの最大のライバルはミウちゃんのような気がしてきたわ。」
エイリーナは、凌馬がミウを喜ばせようとあれこれ世話を焼いている様子を見てそんな事を思っていた。
「ミウちゃん、今日は一緒に寝られないけどごめんね。」
ナディは申し訳なさそうにミウに告げていた。
「ううん、気にしないで。パパも居るし大丈夫だよ。」
「ああ、こっちは気にせずにしっかりとお姉さんと話をしてくるといい。最後って訳ではないけど、当分会えなくなるだろうし。」
凌馬とミウに言われて、ナディはエイリーナの居る部屋へと向かっていった。
「さあ、今日は久しぶりにパパと二人きりだね。」
「うん、パパ絵本読んで?」
ミウが取り出した本を手に取ると、「もちろん。」と答えてカイとソラを連れて寝室へと向かう。
その日は、夜通しでナディとエイリーナはこれまでの事やお互いにスレ違いな気持ちを埋めるように話をしていた。
日付も変わり夜もすっかり更けた頃。
「だからいい? 男を上手く乗せて誘導するにはね───。」
なんの話をしているのやら。
「姉さん、もうわかったから。そんなに色々知ってるのなら自分もやればいいのに・・・、もういい年なんだから───。」
ぼそぼそと小声で囁いたナディだったが、それを聞き流すことはなかったエイリーナ。
「あら~? 随分と生意気な口を聞くようになったじゃない。昔は私の後を付いてきていた泣き虫ナディが、男ができた余裕なのかしら?」
ギュー!
「ねえさん、被害妄想ですよ。そんなこと思ってません。」
ナディはエイリーナの攻撃から逃れると、距離を取る。
「まったく───。」
『うふふ、あははは!』
呆れたようにエイリーナが言うと、何だかおかしくなってナディとエイリーナはどちらからともなく笑い合っていた。
「ナディ、ごめんなさいね。」
「もう、姉さん。その話はもう終わったでしょ。それに、私も姉さんにちゃんと相談もせずに決めてしまったし、その事で色々苦しめてしまってごめんなさい。」
お互いに謝る二人。
「でも、そのお陰で私は凌馬さんやミウちゃんに出会えました。もう、自分の命を軽んじようとは思わないけど、この出会いだけは神に感謝しています。」
ナディの言葉に、エイリーナはナディを抱き締めると昔したように頭を撫でていた。
ナディも子供の頃に戻ったように、ただ目を閉じてされるがままにしていた。
そうして、時間だけがゆっくりと流れていった。
そして、夜が明けるとナディはここで暮らす最後の一日は終わりを告げたのだった。
・アナザーストーリー
─馬車での旅のとある夜の様子─
「さあ、ミウ。もうそろそろ寝る時間だよ。」
「はーい。」
凌馬がアニメを見ているミウにそう声をかけると、ミウはテレビを消して寝室へと向かう。
寝室にはキングサイズを超えるベッドが一つ用意されていた。
基本はこのベッドでミウを間に挟んで、凌馬とナディ、足元の方ではカイとソラが寝そべる様にして寝ている。
「カイ、ソラ。また明日ね。おやすみ。」
ミウは、寝る前には必ずカイとソラに抱き付いておやすみの挨拶をしていた。
『クーン。』
カイとソラは、この時間が何よりも嬉しいときであった。
ミウに甘えるように鳴くと、眠りにつくミウの傍で見守るようにして目を閉じる。
「ミウちゃん、凌馬さん、おやすみなさい。」
「おやすみお姉ちゃん。おやすみパパ。」
「ああ、おやすみミウ、ナディ。」
凌馬はミウのおでこにキスをすると、皆で就寝する。
「凌馬様たちはお休みになられましたね。」
「ええ、クレナイは交代の時間まで休止モードに入っていなさい。」
ムラサキの言葉に、クレナイはソファに座ると休止モードに移行する。
ムラサキは、馬車の外で警護しているゴーレムたちとリンクすると、待機モードに入る。
数時間後、偵察ゴーレムより報告が上がる。
『敵影を発見。馬車より警戒範囲の二キロ圏内に侵入、現在こちらへ接近中。形状、移動速度、魔力量よりゴブリンと推定。数は十体、驚異レベルはEと判定。』
「警護ゴーレム、アルファ、ベータは凌馬様たちの睡眠を妨げぬよう速やかにゴブリン殲滅に向かいなさい。ガンマ、デルタは馬車と馬の護衛に専念。念のため警戒レベルをBとします。」
ムラサキの指示により、ゴーレムのアルファ、ベータは出撃していく。
ゴーレムたちの戦闘力は、冒険者ランクAに相当するため一体でも十分なのだが、音を立てぬよう速やかな排除を優先させたムラサキ。
数分後、無事ゴブリン殲滅をしたゴーレム。
穴を堀り、そこに死体を入れると炎で焼き払ってから埋める作業をしていた。
『敵殲滅を確認。引き続き監視に入ります。』
監視ゴーレムは、再び空に舞い上がり馬車の周りを旋回し始める。
「アルファ、ベータが戻り次第、警戒レベルをCとして通常陣形に戻りなさい。」
ムラサキの指示で再び通常モードに戻るゴーレムたち。
こうして、凌馬たちの快適な旅はムラサキ、クレナイ、そして、ゴーレム達によって守られていた。
「ふああああ!」
「おはようパパ、お姉ちゃん。カイ、ソラもおはよう。」
「おはよう、ミウちゃん、凌馬さん。」
「おはよう、ミウ、ナディ。」
『わんわん!』
朝の挨拶を交わすと、皆でリビングへと向かう。
『おはようございます、凌馬様、ミウお嬢様、ナディお嬢様。』
ムラサキとクレナイは、そうしてまたご主人様のために尽くす一日が始まる。
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