第17話
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「つまり……この魔導書のコードとヨシアキの世界にある……えっと、プログラミングとよく似ていると……」
「うん、そうなんだよ。
まぁでも、似てるっていっても文章の構成が似ているだけでなんだけどね。読めない単語とかめっちゃあるから、正直どんな意味なんかわからないけど」
「……読めないのによくわかりますね……」
「んー、オレの世界のプログラミングに似ているコードを当てはめればなんとなく……意味はわかんなくても、なんか感じとれる……かな。
まぁ、例えば……」
義明は先程まで読んでいた魔導書を開き、パラパラとめくる。魔導書にはところどころに付箋らしき紙が挟まっている。
「あった。ここなんだけど……これ、プログラミングのIf文に似てるんだよね」
「いふ……ぶん?」
初めて聞く単語にアベルトは頭をかしげ、無意識にアリ―の顔を見る。その視線にアリ―は気づいたが、アリ―自身もアベルトと同じく初めて聞く単語に首をかしげて、アベルトの視線に応える。
そんな二人の反応を見て、義明の口角が無意識にクイッとあがる。
「『もし記号Aならば、記号Bを実行せよ。それ以外なら記号Cをせよ』というような実行条件のプログラミングかな。
……わかる?」
同意を求めるようにアリーとアベルトに聞く。二人はさきほどまでの表情とは違い、驚いているような表情であった。
どうやら、伝わったらしい。そして義明の予想通り、この魔術コードの一文はIf文と同意の構文であったことが、二人の表情から読み取れる。
だが、二人の無言が続き、義明はだんだんと不安になってきたときにアリ―が前のめりになって義明に迫る。
驚いた義明は持っていた魔導書を落としてしまう。
「な、なに……?」
「すごいわ……」
「え?」
「すごいわ! ヨシアキすごいわ!」
アリ―が興奮した様子で、義明の手を両手でがっしりと掴んで離さない。
予想外のアリ―の行動に義明は顔を赤くしながら、慌てる。
顔もかなり近い。
「うおおおおお! さすが、フレンダ様のお孫様ぁぁぁぁ!
研究所でこの古代コードを解析するのに、5年かかったっていうのに!
24時間も経ってないのに!
うぉぉぉぉ! ヨシアキ様すごすぎます!!」
アベルトも興奮し、両腕を高らかに上げながら立ち上がる。
「アリ―所長! もしかするとヨシアキ様のそのプログラミングの知識さえあれば、フレンダ様のシークレットコードもきっと解読できるんじゃないでしょうか!
それだけじゃなく、アリ―所長が開発中の魔法もきっと!」
「私も同じことを考えていたわ! アベルト!
ヨシアキ、明日研究所に行くわよ!
私達の研究に手伝ってもらうから!
あ、そうだ! ヨシアキ!
もっとそのプログラミングのことを教えて!」
義明のプログラミングトークに二人は釘付けであった。
文字、書き方、書く道具、構文の種類、プログラミング言語の種類。使用用途。開発出来るもの。
二人はとくに書く道具であるパソコンと、プログラミングで開発した物に関してもとても興味津々であった。
アリ―の想像したとおり、やはり義明の世界はすごい技術のある世界だった。プログラミングで開発したもので世界中の人が繋がれるなんて、それも魔力もなしに。
「そのエス、エヌ、エスというのはすごいわ……。
ホントにだれでも扱えるの?」
「うん、もちろん。パソコンやスマホがないとできないけど……」
「スマホ?」
「スマホっていうのはねぇ……」
次から次へと義明の口から新しい単語がでてきて、二人は興味が絶えない。
このまま夜明けまで続く……そう思われたが、なんともいいタイミングで義明の腹の虫が悲鳴を上げた。それに共鳴するかのように、アリ―たちのお腹の虫が鳴き始める。
「ご飯にしよっか」
夕飯もプログラミングの話、そして魔法の話で盛り上がり、お互いのことを知れば知る程、プログラミングと魔法がとても似ていることをしることができた。
義明は異世界でプログラミングの話ができ、かつそれを異世界の魔女に講義することになるとは思ってもみなかったが、ここきてようやく義明が感じていた物足りないさが埋まりそうであった。
魔術コードの簡単な単語もアリ―に教えてもらい、自分がわからなかった構文の意味を理解することができた。
炎を出すもの、氷を出すもの、竜巻を起こすものなど、この辺はさすが魔法であり、プログラミングとは違っていた。義明が読んでいた魔導書には街吹き飛ばす規格外のものも書かれていたという。
「あぁ、そうそう。今朝みたアリ―の手紙なんだけどさ……」
と義明が切り出すと、アリ―も思い出したかのように、
「あ! そうだった! ヨシアキごめんなさい……なんて書いてあるかよめなかったわよね」
「なんか知らないけど、読めたんだよね」
二人が同時に喋る。
「……どういうことですか?」
「翻訳切手を貼ってないのに? ヨシアキ読めたの?」
「え、うん。
読めたっていうか、なんか理解したっていうのが正しいのかな。
なんとなくこう書かれてるんじゃないかなぁって思ったら……」
初見ではそのことは気づかす、なんの疑いもなくスゥーッと頭の中に入ってきた。
「どういうことかしら……」
アリ―は進んでいた食事がとまり、考えこんでしまう。
「もしかしてヨシアキ様の世界とここの世界で共通するものがあったから読めたとか!
ほら、プログラミングってなんだか魔術コードの亜種みたいじゃないですか。
さきほどのヨシアキ様の話では共通する部分もかなり多いですし……だからヨシアキ様はフィーリングでなんとなく難解な古代魔術コードもなんとなく理解してしまったんですよ!
ということは、アリ―所長の手紙はヨシアキ様の世界ではかなり共通する部分があって、それで……ってそんなことないですよね」
「いや……ありえるかも」
「え?」
「置き手紙って、オレの家ではよくやってたんだよ。とくにばあちゃんが。
決まって内容は、外出するから留守番よろしくっていうないようなんだよ。
……そういえば、手紙読む前に『留守番の書き置きだろ?』って思った……ような気がする!」
「なるほど……でもほんとうそんなことが……でももしそうなら、逆もできることになるわね……。
んー! 今すぐ研究所に戻って研究を勧めたい!」
「お、おちついてアリ―。
今日は流石に……明日朝一で研究所にいこう。
オレも協力するから。あ、もしかしたらプログラミングと魔法のコラボレーションができるかもしれない」
「プログラミングと魔法のコラボレーション?
そんなことできたらきっととんでもない、想像を超えるものができちゃうわよきっと!」
翌朝。
日差しとともに掛け布団を蹴っ飛ばし、ベッドから跳ね上がる。
昨日は全然眠れなかった。おそらく3時間くらいしか寝てないのではないか。
だが、不思議と眠くない。
義明はすぐに着替え、出る準備をして下へ降りる。
流石に早いか、と思ったがアリ―はすでに準備完了していた。
「おはよう、ヨシアキ。
てっきり興奮して寝れなくて、寝不足でひどい顔をしていると思ったけど……大丈夫そうね」
「寝不足なのはあってるけど、気分は爽快だよ」
「ふふ、いいわね!
さ、朝ごはん食べて早く研究所へ行きましょう!」
「うん。
……あれ? アベルトは?」
義明の記憶では、自室に入る前までアリーの家にいたはずであった。
「アベルトは義明が部屋に入ったあとに帰ったわ。
あの子、あーみえて自分の専用枕じゃないと眠れないのよ」
義明は口に含んでいたものが一瞬吹き出しそうになる。
「え! 本当に? そうなの!」
「本人に言っちゃ駄目よ。知られてないって本人思ってるから」
「うん。わかった」
会話を弾ませる二人。
義明とアリ―の朝ごはんは最初のときと比べ、活気が満ちていた。
味も美味しく感じる。
「ごちそうさま」
「ごちそうさま。
よし、行こうか!」
二人は立ち上がり家を出ようとしたときだった。
バーンっとすごい大きなを音をたてて、勢い良く扉が開かれた。
「た、大変です! 大変ですよ!!」
そこには大慌てで現れた、アベルトであった。
「あ、アベルト! どうしたの!」
「大変なんです! シークレットコードが、シークレットコードが!」
「ちょ、ちょっとアベルト落ち着いて、何があったの」
「シークレットコードが書かれた石が……ただの石になっちゃってます!」
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