Long December Days:63

「“契約する……”」

その言葉を聞いて、少女は少しだけ眉を動かした。表情で、文成に続けるように促す。文成は意を決して、そのモールス信号を読み上げた。

「契約する。全ての終わりなき者たちよ。僕は未来を覗き視る権能を持つ。終わりなき者の力だ。それをもって、僕は必要とあれば正義を、更には悪を為そう。この青銅の鍵を代償に、僕は誓う。ネルに生きる生者の一人となることを。生命の環から逸脱し、死から見放されても僕は生きる。――偉大なる神々よ。僕は刃の一つとなって偽神を討つ。受け入れ給え」

その言葉を聞いて、少女は厳かに宣言する。

「白雪文成。ここに契約はなった。終わりなき旅路のために、持ちうる一切を捨てよ。そして、やがて来る終わりのために、研鑽し続けよ」

ごめんね、と言って、少女は涙を一筋流した。

「文成。あなたの幸福を私は、私たちは奪い去ってしまった。もうあなたはこれで、正真正銘の『不死身の怪物』になり果ててしまった。あなたの地球にはこれから選択肢の二番であるところの、『謎の毒ガスに世界が覆われたが、何らかの奇跡によって消えた』という現実を書き加える。あなたが白雪文成であることと引き換えに。……最後のお別れの挨拶くらいはできるだろうけれど、気休めにもならないわね」

大きく息を吐いて、涙を拭ってから少女は震える声で更に続ける。

「あなたに『幸福な王子』になってもらうことでしか、ニコラスに勝つ方法も、あなたの地球もあなた自身も守る方法も残ってないの……」

大粒の涙をこぼしながら、ごめんねと少女は唱え続ける。文成は、泣きじゃくる少女をそっと抱きしめた。

「大丈夫。雪河智絵が英雄になろうと決めた時から、私的なものを捨てなければと思っていた。僕はネルで生き続けることができるんだろう?それならきっと、いいことだってあるさ」

そう言って、文成は少女の目を見つめて、にっこりと笑った。

「それにね、僕が見た幸福は、日本じゃないどこかだったんだ。僕が初めて未来を視たときから、きっとこれは決まっていたことだったのさ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る