Long December Days:61
文成は、小屋に到着した。古びて、今にも倒壊しそうなほどに傷んだ小屋だが、埃や汚れは見当たらない。六畳もないような外見で、入口の引き戸はガタつくこともなくすんなりと開いた。
「本当に、何もないんだな……」
通販によくある文机と、その上に置かれたA4サイズの紙と使い込まれて三割程度の大きさになった六角形の鉛筆。文机の右端に、ちょうど青銅の鍵が隙間なく収まるほどの窪みがある。
紙の前に座ると、文成は紙に書かれた文字に目を通した。そこには、流麗な手書きでこう書かれていた。
『書いた文字と浮かんだ文字の等価交換。要青銅の鍵。青銅の鍵を持たない場合無制限かつ無差別に命が失われるので注意すること。後悔厳禁』
クセの少ない字で、活字のようにも見えるほどだ。1センチメートル程度の大きさで、鉛筆を使ったようだが、人の手で書いたような痕跡はない。
「実物の鉛筆を見るだなんて、何年振りだろうか……」
そう独り言を言いながら、紙に書く。
『僕の地球を死の星にした事態の回避』
文成が鉛筆を机に置こうとすると、その下に赤い文字が浮かんだ。
『解決策1:ニコラス=コールウィーカーの消滅。代償:不特定の銀河系ひとつの消滅。
解決策2:毒ガス、並びにそこから生まれた生物の消滅。代償:雪河智絵、白雪文成両名が生きていたという事実の消滅。
解決策3:技術提供。代償:ソフィアが生きていたという事実の消滅及びソフィー•システム。
望むものに丸をつけること』
やはり同様に1センチメートル程度の大きさの字で箇条書きされたそれを見て、文成は目を剥いた。
「なんだこれは……!」
「なんだこれはも何もないのよ、文成。必要なものを決めるのはあの天秤だもの」
その言葉とともに、文成に青銅の鍵を渡したゴシックロリータの少女が現れる。まゆを釣り上げ、口をへの字に曲げて。
「所有者が引き出せる青銅の鍵の力を大幅に水増しするのがあの天秤なの。そんなものをみんなに使われたら困るでしょう?選べないなら帰って」
突き放すように、少女は文成に告げる。抱えている怒りを、言葉と顔に全てのせて、文成にぶつけていた。
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