Long December Days:58

「ニコラスが動いたのか?何が起こった?」

文成は椅子に座ったまま、無数の矢を作りだしては撃ち出すということを繰り返しながらケイに言う。無数の矢は幾分ぎこちない動きではあるものの、数日前とは比べ物にならないほどの武力となって、文成を支えていた。文成一人が青銅の鍵を使えば――電力という大きな問題を無視することになるが――NE一個中隊に匹敵するほどの力になっていた。

文成はこの二日間、ひたすらネルにこもり、青銅の鍵を使いこなす訓練と、ニコラスを迎撃するシュミレートをし続けていた。ネルにいる間、義体のバッテリーを全く消費しないことに気がついた文成は全力を投じ続け、その結果として10mを超える巨大な剣を生み出し、素早く叩きつけるという技術をもマスターした。ニコラスの姿が視界に入れば、その時には既に決着が着いている。目標に定めたその地点に、あと一日で到達できるという域まで来ていた。

「今日の昼過ぎの時点で、地球全てを覆い尽くすように猛毒を散布しやがった。ネルで把握している全ての毒とも魔法とも異なる、だ。散布された時点で、手遅れだった。済まない。もっと人手を用意するべき事柄だった」

ケイがその筋肉質な体を縮こまらせて、弱々しい声と青ざめた表情で、文成にそう告げた。

「ケイ、なぜ謝る?フィクションに出てくるような未知の生命体ならともかく、ただの猛毒だろう?MPFやNEには大きな影響などないだろう?」

文成がケイを気遣うようにそう言うと、ケイは首を大きく横に振った。その間も、文成は無数の矢を動かし続けている。ケイの深刻そうな顔の原因を、まだ理解できずにいた。

「違う。違うんだ。まさにそのがまき散らされたんだ。落ち着いて聞いて欲しい、白雪文成」

ケイは大きく息を吐いてから、真っ直ぐ文成を見て告げる。その真剣さに、文成もようやく手を止める。文成が未来視を使おうとしたのと、ケイが告げたのは同時だった。


「お前がいる地球で現在生命反応に類するものを発することができるのは、お前しか残っていない」

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