Long December Days:49

陽奈はソフィアとの通信の再接続を試みたが、接続できなかった。顔中に疑問符が浮かんだ頃、陽奈の部屋の通信端末が起動し、緊急ニュース着信を伝える警報を鳴らした。大規模災害時等に鳴るものである。ほぼ同時に、携帯端末や電脳にも同じニュースが来た。どんな大災害か来るのかと身構えつつ確認した陽奈は、目を剥いた。

『屋内に突如として大量の羽虫が出現する事案について』と題されたそれは、ほぼ日本全域に突如として湧いた害虫について報じるものだった。瞬く間に部屋中を埋め尽くすほど増殖し、合体して何かしらの動物の形を取って、人や動物に襲いかかる。非常に獰猛で、金属製の義体をかみちぎるほどの顎を持っている。従来の殺虫剤は効果なし。銃も刃物も鈍器も逆効果なので使ってはいけない。幸い冷凍銃が有効であることが判明しており、現在駆除活動中。日光の下では活動が鈍るため、外に出ること。現在の大きな被害場所は大型ショッピングモール、駅、工業施設、そして。

「病院……!」

アスクレピオスにも同じ虫が湧いて、ソフィアがそれの駆除に当たっているため手が離せないのだ。

助けに行こうと踏み出して、ふと気がついたことがあった。一昨年観た映画のことだ。大量のナメクジとムカデと蝿と蚊とゴキブリが街中を埋め尽くし、やがてそれらが集まって動物の形となって屋内や暗闇を暴れまわり、MPFの中に入り込んで乗っ取って都市機能をマヒさせて、最終的には人のような形となって人類に宣戦布告するパニック映画。確かタイトルは「12月の一番長い日」。正直余り面白くはなかったが、あのの演出がかなり力が入っていて印象に残っていた。その映画と展開が同じである。MPFが大暴れするだの、不死身の害虫が人間に襲い掛かるだの、強酸と冷凍銃が効くだの。あの映画の「一番長い日」は12月20日。今日も12月20日。


玄関のところまで来ていた陽奈は、背後で物音がするのを聞く。

「冗談でしょ……!?」

振り向くと、そこにいたのは映画と全く同じ外見の虫人間であった。

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