白雪文成の事件簿:Long December Days

Long December Days:1

†12月15日深夜 白雪文成宅

その日夜遅くまで、文成とぷでぃんぐは通信をしていた。青銅の鍵の調査の件である。依然としてネルに行くことも何かを生み出すこともない青銅の鍵だが、ほぼ完全なコピー品を作ることに成功したという連絡と、それに関わる実験についての相談だった。

「分かっていたことだが、やはりネルに行くための実験はなかなか進まないな……」

『そうは言うがな、文成。これ以上の速度を求めようとしても不可能だ。諦める他はないだろう』

「……都内の古本街に都合よく何かないものだろうか?」

何気ない思いつきが口をついて出ただけの台詞であったが、意外なことにぷでぃんぐの食いつきは良かった。

『紙媒体に頼るのか。文成、妙案を思いつくものだな。ソフィアの奴は紙媒体が嫌いだから、ソフィー・システムの中には紙媒体経由の情報はかなり少ない。逆に、魔術師連中は紙媒体が大好きらしい。古本街を巡れば情報が得られる可能性はあるぞ』

呆れたように、文成が言う。

「ぷでぃんぐ。仮に魔法について記述された本が真実古本街にあるとして、それをどうやって探すんだ?魔法を悪用する人間のいない保証などないのだから、暗号化されてない方がきっと少ないはずだろう。ではどうやって暗号を解くんだ?」

『文成。何も探すアテがないのに言ったわけじゃないさ。ヨルムンガンドの整備や改造には西暦時代の文書や書籍が大いに参考になる。その結果としておれは、古本街にかなりの数の友人がいる。深水にしろ雨岡にしろ西暦時代からずっと続く歴史のある家なんだろ?じゃあ魔導書も歴史に関係するようなことだろう。例えば宗教とか、時代小説とか。そういうのを専門に集めてる奴に何か他とは違う、一線を画した本がないか訊くくらいなら、無駄じゃないんじゃないか?』

「それに」と区切ってさらに続ける。

『本に隠された暗号を探りたいから暗号解析のプログラムを貸してくれって文成の口からアイツに言えば、喜んで貸してくれるんじゃないか?お前の本好きはおれらみんながよく知ってるんだから』

「なるほど。筋は通っているな……」

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