第137話 参加表明
「うわぁあああああああ!
終わっちまったよぉおぉおおおおおお!!」
朝からそんな奇声を上げるのはダンテ。
そして、僕達が居るのは約一ヶ月ぶりの教室だった。
「前期休暇が終わったのは僕も寂しいけどさ、学園は学園で楽しいと思うよ?」
「楽しいとは思うけどよ……アレはアレ、コレはコレなんだよ!」
まぁ、確かにダンテの言う事も分からなくない。
前世でも日めくりカレンダーをめくって行き、31日が近付くに連れ憂鬱な気分になったし。
もっと夏休みが長ければいいのにと思った記憶がある。
だがしかし。
いざ学校に通うとなれば、久しぶりに会う友人達の姿にそんな憂鬱な気分も霧散し、新学期に胸を高鳴らせた記憶もあった。
なので、気休め程度ではあるのだが。
「それに、争奪戦もあるんでしょ? 特訓の成果を見せてやろうよ!」
ダンテが楽しみにしていた争奪戦の話を振ってみる事にすると――
「そうだっ!! 俺には争奪戦があるんだ! こんな府抜けてる場合じゃないよな!」
などと言って気持ちを切り替えして見せるのだから、何とも現金なものだと思ってしまう。
何はともあれ、ダンテも気持ちを切り替える事が出来たようだし。
僕も後期に向けて気持ちを新たにすると「よしっ」と声に出して気合を入れ直す。
そうしていると、ガラリと教室の扉が開き、サディー先生が姿を見せるのだが……
「ヒイッ!」
そんな悲鳴が教室のそこかしこから上がる。
しかし、それも当然のことだろう。
今のサディー先生は前期休暇を挟んだせいだろうか?
髪を三つ編みにするという事を忘れてしまったようで。
初めて出会った時と同様に、地面まで届きそうな髪をゆらゆらと揺らし、髪の隙間から目を覗かせている。
数カ月ぶりに見たその姿は中々と言うか、かなり衝撃が強く。
僕も思わず声を上げそうになってしまうくらいには衝撃的な姿だった。
そして、短い悲鳴を上げるクラスメイト達の姿を見て、サディー先生は不思議に思ったのだろう。
サディー先生は首をコテン傾げて見せるのだが、髪の隙間から片目だけが覗くその姿は、正直言って超怖い。
その事により、教室は再度悲鳴に包まれる事になるのだが。
やはりサディー先生は自分の容姿が恐ろしいと言うことに気付いてないようで……
「あ、あら? ひ、久しぶりに会ったから、よ、喜びのひ、悲鳴ってこと……かな?」
そう言うと笑みを浮かべて見せる。
恐らく本人からすれば、嬉しさを表現しただけの行為なのだろう。
しかし、髪の隙間から覗く片目と三日月形に裂けた口はそら恐ろしく。
三度目の悲鳴が教室に響くことになってしまった……
その後、どうにか三つ編みをして貰ったことで悲鳴は収まる事になる。
そうして落ち着いたところで、サディー先生の話が始まったのだが。
今日は前期休暇明けと言うことで授業は無く、後期の日程について説明をしたら解散との事で。
サーディー先生は後期授業の日程や、今後の授業で必要になる教材などを黒板に書きだしていき。
僕を含めたクラスメイト達は忘れないように紙に写し込んで行く。
黒板に書かれた文字を紙に写しながら。
サディー先生は見た目は怖いのに、丸みを帯びた可愛らしい字を書くんだなー。
などと失礼な事を考えていると、サディー先生がパンと手を打った。
「こ、これで、せ、説明は終わりですね〜。
つ、続いてですが〜、せ、席位争奪戦の、さ、参加者を集いたいと……お、思います〜」
どうやら、後期授業の日程についての説明は一通り済んだようで。
サディー先生は席位争奪戦の参加者を募り始める。
そして、その瞬間――
「サディー先生! 俺は参加しますよ!」
勢い良く立ち上がったダンテは席位争奪戦に参加する事を表明するのだが。
勢いよく立ち過ぎた所為で椅子を倒してしまい、その所為でクラスメイト達の間に笑い声上がる。
それと同時に。
「ダンテ! 頑張れよ!」
「ダンテ君! 応援するからね!」
「後期組の力を見せつけてやれ!」
クラスメイト達の間からダンテに対する声援も上がり。
そんな声援を聞いた僕は「何気にダンテって人気あるよな~」などと考え。
ダンテの人気に思わず嫉妬してしまう。
声援が欲しい訳ではないのだが、少しだけ羨ましく感じていると。
「僕も参加します」
今度はベルトが立ちあがり、席位争奪戦に参加することを表明するのだが――
「キャーーーーー!!」
何故か女子生徒達の間から悲鳴が上がり。
突然の悲鳴に思わず肩を跳ねさせた僕は、慌てて周囲の様子を覗う。
「アルベルト君頑張ってーーーー!」
「アルベルト君なら絶対席位取れるよ!」
「私、絶対応援しに行くからね!」
「わ、私お弁当つくってあげるね!」
「はぁ!? 出しゃばるんじゃないわよ!」
悲鳴の後に続いたのはそんな声援の言葉で。
悲鳴だと思った女子生徒達の声は、正確には黄色い悲鳴だった事に気付く。
ダンテの時は男子生徒の声援の方が多かったが。
どうやら、ベルトの場合は女子生徒の方に人気があるようで、その人気ぶりに感心してしまう。
……その反面、女子生徒達の黒い部分を垣間見てしまった僕は。
女子ってちょっと怖いかも……そんな風に思うと、少しだけ頬を引き攣らせてしまったのだが――
「ちっ、アルべルトはモテて良いよな」
「俺と一緒にアルベルト闇打ちするヤツいねぇ?」
「ロレンスちゃんまで……ぐぎぃぃい! アルベルト負けろ負けろ負けろ!!」
どうやら、女子生徒に限らず、男子生徒にも黒い部分があるようで。
そんなクラスメイト達の黒い部分を見せられた僕は、ベルトが刺されてしまわないか少しだけ不安になってしまった。
そして、サディー先生はと言うと。
クラスメイト達の様子を他所に、マイペースな感じでパチパチと拍手を送り。
「ゆ、勇気ある2人に、は、拍手~。
ダ、ダンテ君とア、アルベルト以外に、さ、参加者は、い、居ないかな〜?」
そう言って教室を見渡す。
あんな黄色い声援と怨嗟の声を聞いた後では、参加表明し辛いものがあるが。
旅行最終日に参加すると言ってしまったし、何より、不良と言う印象を払拭したかった僕は――
「僕も参加させて頂きます」
勢いよく立ちあがり、覚悟を決めて参加表明をするのだが……
「お、おい、アイツも参加するのかよ……」
「てか、アイツ強いのか?」
「分かんないわよ……でも、噂では五席を倒したって話もあるし」
「眉唾じゃねぇーのか? 不良って印象はあるけど強そうには見えないんだよな」
「と言うか、いよいよ学園制覇に向けて動き出したってことか?」
ダンテやベルトが参加表明した時とは打って変わり。
声援の一つも無いどころか、冷めた反応が返ってくる。
まぁ、始めから声援は期待していなかったし?
もしかしたら声援が返ってくるかも?なんて期待も全然していない。
万が一の可能性を考え、声援にどう返したらスマートかなんて一つも考えていなかったが……
……何故だろう? 思わず涙目になりそうになってしまう。
どうにかして誤解を解く為に、誤解を解く為の言葉を並べたくなってしまうのだが。
この場で幾ら言葉を並べても、きっとクラスメイト達には届くことはないのだろう……
そう思った僕は、クラスメイト達の反応で若干挫けてしまった心をどうにか立て直すと。
争奪戦で正々堂々と戦う事を決め。
その戦いを見て貰うことで不良と言う印象を払拭する事を心に決めるのだった。
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