それのことになるとタッテしまうものなーんだ

カゲトモ

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「はぁぁぁぁああ」

 ぐぐぐっと大きく伸びをした。テレビを付ける。時間は九時十分。アラームを九時にセットしたが起きたのはスヌーズのアラームでだ。

 テレビでは特撮のヒーローものがやっていた。今年のヒーローは稀に見るイケメンぞろいだ。別に観たくて観ている訳じゃない。何となくいつもそのチャンネルになってしまうだけだ。

「シャワーでも浴びるか」

 コーヒーメーカーのスイッチを押してから風呂へ向かう。朝食はコーヒーと食パン。今日はマーマレードの気分だ。それからヨーグルト。一人暮らしをするようになってからは、大体いつもこのメニューだ。

 一人の朝飯を作るのが面倒くさい、ってのが主な理由。って言っても実家暮らしの時にしていたのかって訊かれるともちろんそうでもない。だって母親がやっていたし。

 ただ一人だけの朝飯の為に料理をするのが嫌なだけ。パパッと出来るもので十分だ。まぁ、そんなことだから昼も夜も大体外飯、あったとしても白飯に肉焼いたのとか、野菜炒めたのとか、なんかそんな感じだ。一人暮らしの男だぞ? 凝ったものなんて作っていられるわけがない。

 濡れた髪を適当にタオルドライして部屋着に着替える。どうせ今日は出掛けない。今日は台風の影響で店を臨時休業にしたから、出勤はしない。斉藤君にも来なくていいと伝えているし、張り紙もしてきた。

「うわ、風やば」

 直撃は夜だと言っていたのに朝からこの突風。雨戸がガタガタと揺れている。ニュースで言っていた通り、今日は出来るだけ出掛けない方が良さそうだ。

 常連客から貰ったマーマレードジャムは、スーパーで売っている物とは色がちょっと違う。しかも賞味期限が短い。特産品で作られたそれは、手作りで売られていたものらしい。試食して一口で惚れ込んで大量に購入したと言っていた。その一つを俺が貰ったのだ。

「んーんまい」

 オレンジの甘さ、苦さ、酸味、香り、全てが丸くなって最高のハーモニーを奏でている。

 多分今まで食べたマーマレードジャムで一番美味い。いつか旅行へ行ったら購入したい。まぁ、旅行なんてそうそう行けないんだけど。


 テレビが二時間のサスペンスドラマに変わった。今日は占い師が探偵役のものらしい。

もしミクリさんが探偵として推理したら、実はすぐに犯人が分かったりして・・・? なんて同じ飲食店街の占い師を思い出す。あながちこの推理は間違ってなかったりして? なーんて。

「よし、やるか」

 タンスからカーキ色のエプロンを引っ張り出す。数えられるくらいしか巻いたことのないエプロンは母からの餞別だった。部屋着にエプロンなんて違和感しかないが、別にいい。汚れるのを防ぐだけだし。

「さーてと、何から作るかな」

 昨日の夜、二十四時間営業のスーパーで買い物をして来ていた。今日は臨時休業で店は休み、かといって何処かへ出掛けることも出来ない。では何をするか、趣味に没頭するに決まっている。

 俺の趣味は料理だ。

 一人分の飯を作るのは面倒でも、趣味の料理はそれとは違う。全然違う。食べるための料理と、作るための料理。ほら、全然違う。

「とりあえずはローストビーフだな」

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