幕間11

 舞台の上に、男が一人。


 小さな少年、齢は十七じゅうしち


 終わりの幕が下りた後。


 そっとのぼった板の上。


 誰もなんにもない舞台。




 俺は幕前に立ち、観客席を見回す。


 一人語りが響き続けたホールを見る。


 一方。


 俺は客席に座り、次の話を待っている。


 演者の長い長い幕間を待ち続ける。


 そうか。

 そうだったな。

 そういう場所だった。


 めでたしめでたし。の後、性懲しょうこりもなく始まった物語の終着点。


 分をわきまえず舞台にこっそり上がったのが俺なら。

 分をかえりみず客席にしぶとく残っていたのも俺だった。


 Nullヌルの力が、俺をあの暗黒の精神世界にいざなった。

 であれば、ヌルを取り込んだ俺にも同じことができると考え、実行した。

 そして俺は、俺の精神が創った、俺しかいない世界にまんまとひきこもった。


「これが、お前おれの望んだものだ。文句があるか」


「別に、おまえがそうしたいのなら、そうすればいいさ」


 客席に座る俺。あれはヌルだろうか。それとも逆。


 ―――いや、今さらそんな区別が必要とも思えない。


 完全に、二つが一つになったのだ。


 一つが二つであっても同じこと。


 ……本当にそうだろうか。


「アンコール! さぁ、次の話を聞かせてくれよ」

「もう、ない。分かっているだろう」

「だがな、帰ることもできないんだぞ。何か捻り出せ」


 そう、の言うように、この空間から出ることは叶わない。


 扉はあるが、固く閉ざされている。


「じゃあ、映画でも観るか。茉莉香たちの物語を、俺の持ってる記憶と記録から再構成して、映画化してやろう」


「それはいいな。そのうち、あいつらのその後を見られるようにしよう。灯台守にだって、海を眺める権利くらいあるんだから」


「互いに不干渉なまま、ただ見ているだけ。良いじゃないか。これこそ、俺の望んだ世界だ」


 ―――パン。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る