第4話 不審な男2
「あっ、もうかなり咲いてる」
最近夜勤の多い映美は、今日も桜の様子を見ながら川沿いを遠回りして歩いた。映美と反対方向に歩いていく、これから仕事のサラリーマンたちの暗い顔とは対照的に、映美の表情は明るかった。
「満開に近いなぁ」
映美は咲き誇り始めた桜を眺め、春の陽気も相まってなんだか無性に幸せを感じた。咲き誇る桜の下を歩くとそれだけでなんだか、人生得をした気分になった。
「やだ、またいる」
良い気分で公園まで差し掛かると、男はまた前と同じベンチに座って、何をするでもなく、桜の花には目もくれず、公園に植えられた樹木の辺りを眺めていた。
何をしている人なんだろう。こんな平日の昼間にいつも公園にいるなんて。映美は改めて男を見つめた。
前回見た時と変わらず、無精ひげが伸び、服装も相変わらず小汚く、ホームレスのようにすらも見えた。頭はもじゃもじゃで、いつ床屋に行ったのやら分からないほど、伸びきっている。一見年を取っているようにも見えるが、実際は自分とそう変わらないのではないか、多分、二十代中頃か、後半といったところかと映美は推測した。
「母さん、今日もいた」
家に帰りついてから、映美はまたすぐ母に報告した。
「いつもいるんだよ。向かいの矢崎さんもいつも見かけるって」
「そうなんだ。いつもいるんだ」
「なんか気味悪いだろ」
「うん、なんだかね」
「絶対目を合わせるんじゃないよ」
「うん」
それはなんだか大げさなような気がして、映美は少し笑った。
「笑いごとじゃないよ」
「うん、でも、なんか大げさじゃない」
自分もそれをしていたこと思い出し、映美はなんだか急に冷静になってきた。
「だって、まだどんな人かも分からないんだよ」
「見た目が怪しいってだけで十分だよ」
映美の母はにべもない。
「ごはんまだだろ」
「うん」
「用意できてるよ」
「うん、ありがとう」
夜勤明けの疲れた体に母の作ってくれる、朝食はありがたかった。
「仕事大変なんだろう」
「うん、ちょっと、今人が足りなくて」
「ここのところ夜勤多いね」
「若いし独身だから、どうしてもね。そういう役回りになっちゃう」
「食べたらすぐ寝るかい」
「うん、お風呂に入ってから寝る」
「じゃあ、お風呂の用意もしようね」
映美の母は、立ち上がるとお風呂場へ向かった。
「ありがとう」
映美は、母の作ってくれたお味噌汁に口を付けた。
「おいしい」
相変わらず母の作るお味噌汁は絶品だった。
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