第二十五話



 あれやこれやと考え巡らせ気づいた時には昼休み。

 正直勢いで言った感じだったが、言ってしまったものは仕方が無い。やるだけやるとしよう……。


「あ、コウどっか行くの?」


 先に待っているだろうあかりの元へ行こうとすると、シュウが尋ねてくる。まさかシュウに告白する作戦を練りに行くとは言えない。


「ちょっとな。何かあったか?」

「ああうん、別に大したことじゃないんだけど、今日空いてる?」

「あー、大丈夫空いてる」

「じゃあちょっと近所の喫茶店行かない? ちょっと話があって」

「おう、いいぞ」


 しかしシュウからそういう話を持ち掛けてくるのは珍しい。まぁでも、放課後どっか寄るなんてなんか青春っぽいしそれでいいか!


 とは言え昼休みも有限なのでシュウに断りを入れ待ち合わせ場所へ行く。

 朝方連れてこられた踊り場へ向かうと、やはりあかりは来ていたのでとりあえず話を始める。


「待たせて悪かったな」


 謝っておくと、あかりは頷くのでとりあえず話を始める。


「さて、早速本題に入るけど、とりあえずまずはどうやって告白に持ち込むかだ」

「うん……」


 せっかく揚々と言ってやったのにどことなくあかりの表情は晴れない。


「おいおい、当事者がそんなんじゃ協力する側もやりがいが無いだろ」

「ああうん、ごめん……」


 返事をするあかりは未だに浮かない顔をしている。今になって怖気づきでもしたか。


「やっぱやめとくか? もしかしてお前あんまり乗り気じゃないんじゃ……」


 言うと、あかりは慌ただしく首を振る。


「う、ううん! するよ! する! やる気満々だよ!」

「それならいいけど」


 考えても分からないのでとりあえず今は理由はさておいても、俺としては未だ乗り気ではないのは事実だ。

 それでも一度手伝うと言ってしまった以上、あかりがやると言う限り協力してやらないといけない。


「ま、でも協力と言っても、正直俺にしてやれる事は少ない」

「えー」


 出し抜けに言ったせいか、あかりがこいつ使えねぇと言わんばかりの眼差しをこちらに向ける。俺がすごい悪いみたいだからやめてくれませんかねそれ?


「まぁ告白なんてのは今までの努力を存分に生かす、言ってしまえば大事な入試テストみたいなもんだ。考えてみれば分かるだろうけど、高校の入試テストを誰かと一緒にやったか?」

「え、みんなでやったよ?」

「は?」

「え、もしかしてコウ、教室で一人だったの⁉」

「あほか」


 思わずチョップすると、あかりは頭を押さえうずくまる。


「うぅ……しぬぅ……」

「そんなに強くしてないだろ……」


 ていうかさ、この子たまにすっごい頭弱い事言うよね。普通あんな解釈しないよね? これでボケてるならいいけど、こいつの場合たぶん真面目にそういう考えに至っちゃってるんだからもう呆れを通り越して感心する。


「まぁなんだ、そういう意味じゃなくてだな。人と相談してテストの問題を解いたか? って言ってるんだ」

「あ、そういう事! それなら最初からそう言ってよ~コウは説明が下手だねぇ」


 普通そんな超然的解釈されるとは思わないだろこのあかっちめ。しばくぞ。


「……それはともかく、告白はテストと同じだからその場で人の力は借りれない。俺がしてやれるのはそうだな、せいぜい舞台のセッティングくらいだ」

「セッティングって?」

「どこで告白すればいいとか、いつ告白すればいいだとか、シュウを告白する場所に呼びつけたりとかだな」

「それだけぇ?」


 間延びする声からは不満がありありと見て取れる。


「これ以上何をしろと?」

「告白の仕方くらい教えてよ!」

「は?」

「告白って、何するの!」


 ついつい言葉を失ってしまった。何、この子告白の意味もあんまり分からないのに言ったの?


「えっと、マジ? マジで分からないのか?」


 聞くと、あかりはこくりこくりと頷く。


「あ、でも恋人になるためにする事っていうのは知ってるよ!」

「間違っちゃいないけどさ……」


 それ以外知らないってこいつどんだけ初心うぶなんだよ。まぁいいや、とりあえず説明してやるか。


「告白っていうのは、自分の気持ちを相手に伝える事を言うんだ」

「自分の気持ち?」

「そうだ。好きだという気持ち、きゅんきゅんする気持ちを言葉にして伝える」

「え……これを伝えるの?」


 あかりが胸の辺りを押さえ聞いてくる。その言い方だと乗り気じゃないように見えるな。例のモードにでも入ってるんだろう。


「そうだ。それでもし相手も同じ気持ちだったら付き合えて、違ったら付き合えない。まぁ、回答が相手の気持ちのテストみたいなもんだな。合っていればマルがもらえてテストに受かるし、間違っていればマルはもらえないからテストには受からない」

「じゃあ、もしテストに受からなかったらどうなるの?」

「え、たぶん、二度と喋れなくなるんじゃないかな……」

「え……」


 若干あかりの目が揺らぐ。

 おっとやらかした。せっかく人が勇気出して告白しようという時にネガティブ思考漏らして水差してどうすんだよ。


「あ、でも何事にも例外はあるっていうか……。シュウなら大丈夫だ、たぶん!」

「たぶん……」

「えと、いや、あれだ。大丈夫だ! 少なくとも俺がもし誰かに告白されて振るような事があっても、その子と二度と口を利かないなんてない! 今まで通りに接するから安心しろ!」


 いやいやいや、俺がそうだとしてどこに安心する要素があるんだよ! ああやばい、あまりにもがみがみ言い過ぎて子供のやる気をそいでニートを生み出す親ってこんな心境なのかな⁉ いやそもそもそんな人いないよね!


 思考が明後日の方向に羽ばたこうとするのを止められないでいると、ふとあかりが呟く。


「……でも、やらないと」


 その声には決意だとか決心の色が滲み出ていたが、同時にどこか強迫的な色もまた垣間見えた気がした。

 ただ、あくまで気がしただけであって定かではない。ならば俺は俺のできる事をやるだけだ。それに合わせて数日後にはうってつけの行事が控えているのを授業中思い出した。


「あかり、近いうちに球技大会あるだろ。告白はその日にしよう」


 程よい疲れの後は気分が上がりやすい。一番近い日で告白に最適な日はここしかないだろう。

 正直、何が俺をここまで駆り立てるのかまだ分からない。それでもやっぱり、あかりのために何かしてやりたい、その気持ちだけは確かにあった。

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